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二.廃線
「でも、丁度よかったな。」
高校三年になった、ある日の帰りの車内。
夕焼けを背に走る列車の中で、
勇太がそうつぶやいた。
「何が?」
「この世話になった列車も、俺たちの高校卒業と同時に用なしだろ……。」
「そんな、言い方しないでよ。」
勇太は悪気があって言ったわけではない。
少し潤んだ瞳がそれを物語っていた。
「あっ、悪い。でも、よく頑張ったよな、この古びた列車も。」
「仕方ないよ……。」
私は、流れる景色を窓から夢中に眺めるふりをした。
「時代の流れと共に、ローカル線も廃止、地域活性化ならずか。」
「うん。」
「茜の父さん、この事聞いたらどう思うかな?」
「……。」
少しだけまぶしい夕日の赤が、
誰もいない車両に勇太と私、
二人だけの影をつくる。
影が揺らめくたびに、私の心も騒めいた。
___ねぇ、父さん、私が通ったこの沿線なくなるんだよ。
父さんが運転していた、この列車がもうなくなるんだよ、
ねぇ、分かっている?
『吹雪線 老朽化のために廃止』
『閑散とした路線。利用客減少の歯止めきかず』
そのニュースが私達の町に舞い込んできたのは、
父が旅立ってから二か月後の若葉の頃だった。
何もない町に、飛び込んできたこのニュース。
ただ、いつかこんな日がくるだろうと
どこか確信めいた気持ちを
町の人々は持っていたように今にしては思う。
一度は父の手でよみがえった私たちの路線も、
時代の波、又、国の情勢には勝てなかったということか。
近所のおばちゃんたちはよく頑張ったよと
列車と父に対して言ってくれたけど。
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