二.廃線

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その事があったからではないが、 高校三年の夏、私は進路を決めた。 私もこの町を出よう。 何もないこの町。 変わらない景色。 私もここから卒業しよう。 そう決意した。 父がいないこと、路線がなくなること。 それが理由ではないと自分に言い聞かせて……。 でも、これだけは胸を張って言える。 この町が好きだ。 ここで暮らす人々が好きだ。 ここで育った私を誇りに思う。 顔なじみの友人との通学。 駅の売店の代わり映えしない陳列された商品。 でも、それがいい。 「人は何かをもとめすぎだ。 何もないのがちょうどいい。」 父が良く言っていた言葉だ。 客が来ない路線を活性化するために 日夜励んでいた父。 矛盾しているように聞こえるかもしれない。 何かを変えることも必要。 ただ、何も変わらずにそのまま受け入れて 感謝することの方がもっと大事なのでは。 そうとも言っていた。 でも、私はそれに甘えてばかりいたのではないか。 そう十八歳の自分に問いかけた夏。 この町を出る決心をした。 何もないこの町。 いやまだ何者でもない自分を 探す旅に出るために。 春になれば、十八年間住んだこの町から卒業する。
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