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その事があったからではないが、
高校三年の夏、私は進路を決めた。
私もこの町を出よう。
何もないこの町。
変わらない景色。
私もここから卒業しよう。
そう決意した。
父がいないこと、路線がなくなること。
それが理由ではないと自分に言い聞かせて……。
でも、これだけは胸を張って言える。
この町が好きだ。
ここで暮らす人々が好きだ。
ここで育った私を誇りに思う。
顔なじみの友人との通学。
駅の売店の代わり映えしない陳列された商品。
でも、それがいい。
「人は何かをもとめすぎだ。
何もないのがちょうどいい。」
父が良く言っていた言葉だ。
客が来ない路線を活性化するために
日夜励んでいた父。
矛盾しているように聞こえるかもしれない。
何かを変えることも必要。
ただ、何も変わらずにそのまま受け入れて
感謝することの方がもっと大事なのでは。
そうとも言っていた。
でも、私はそれに甘えてばかりいたのではないか。
そう十八歳の自分に問いかけた夏。
この町を出る決心をした。
何もないこの町。
いやまだ何者でもない自分を
探す旅に出るために。
春になれば、十八年間住んだこの町から卒業する。
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