第四章 うーさんとクマさんと私の生活基盤 2

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第四章 うーさんとクマさんと私の生活基盤 2

「いやぁ~大変だったな~」  クマさんは大量のハチミツが入った壺をコテージの一角に大事そうに置くと、肩を叩く。  帰りの道中、いくら私が聞き出そうとしても、あの養蜂箱の中で何が行われていたのかは教えてくれなかった。ただ一つだけハッキリしたことは、今度ハチミツの入手方法をしっかりと考えなくてはいけないということだ。 「そういえば、うーさんは本当に大根が好きなの?」  先ほど苦そうな顔をしていたので聞いてみる。 「当たり前だよお嬢ちゃん。ウサギが皆ニンジンばっかり食べているとは思わないでほしいな」  うーさんは顔を引き攣りながら答える。もうその仕草が嘘だと言っているようなものなのだが、ひねくれ者のうーさんは正直に言えないのだ。 「そうだうーさん。明日手伝ってほしいんだよね~」 「何をだい?」  クマさんが唐突にうーさんに手伝えと言う。一体何をするんだろう? 「文香も一緒に暮らすことになったことだし、新しい食糧庫が欲しいんだ」 「それと私になんの関係が?」  うーさんはいまいち話を理解できていないようだ。というより、クマさんの話が唐突過ぎるのが悪い。 「うーさんの繰り返し使える爆弾で、岩壁を爆破してほしいから」 「そういうことか。良いぞ、また明日ここに来るから」  うーさんはそう言い残し、律儀に大根を一本抱えて走っていった。  この前の話だとうーさんのお家は岩を爆破して作ったみたいだから、爆弾を持っていても不思議では無いけど、繰り返し使える爆弾ってなに? エコなの? 「繰り返し使える爆弾って?」  私はたまらず尋ねる。この文字の森は不思議なことが多すぎて、ついついクマさんを質問攻めにしてしまう。 「あれはうーさん特有の能力みたいなものかな? 僕の一太刀で切れる斧と一緒かな?」  確かに言われてみれば、クマさんが斧を何回も木にぶつけてるのを見たことがない。どこからともなく現れた斧でいつも一太刀で切り倒していた。あれがクマさん特有の能力だと仮定すれば、うーさんの爆弾も理解できる。 「じゃあそれも文字の森の木から作ったの?」  なんとなくだけど、文字の森の木が絡んだ時しか、魔法のような事は起きないと思っていたのだけど違うのかな? 「うん? 違うよ。僕やうーさんみたいな元ぬいぐるみは、一人に一つ、特有の能力があるんだ。僕なら一太刀で切れる斧、うーさんなら繰り返し使える爆弾。って具合さ」  文字の森の木から不思議な現象が起きていることは確かなのだから、それ以外にあってもおかしくない。私はこの場所の認識を改めないといけない。 「僕の斧は一太刀で切れるけど、斧で切れないものは切れないんだよね」  クマさんが少し残念そうに答える。つまりなんでも切れる便利な斧ではなくて、元々切れる物を一太刀で切れる便利な斧というわけらしい。クマさんが残念そうにしているのも理解できる。ちょっと能力としては微妙かも知れない。 「でもほら、木こりには一番適切な能力だよ!」  私は精一杯の励ましをする。残念ながらこれぐらいしか言いようがない。  しかしクマさんは下を向いたまま反応がない。マズイ……。 「そ、それよりも食糧庫を作るのになんで岩壁を爆破しなきゃいけないの?」  落ち込んでしまったクマさんに焦りながら、話を変える。ちょっと露骨だったが気がつかないと信じてる。 「あ、それはね~その方が楽だから」 「楽なの?」 「そうだよ? だってうーさんに爆破してもらって、そこをちょっと掃除すれば完成だもん。いちいち小屋を作るより楽でしょ?」  急に元気を取り戻したクマさんを見て、ちょろいな~と思いつつも、不思議な能力でどうこう出来る範囲と出来ない範囲の差が全く分からない。  普通何かの物語だったら、もっと分かりやすく、出来ることと出来ないことが区別されているものだけど、これは現実だからか、そんな丁寧なお話ではないみたい。私の脳裏に事実は小説より奇なりという言葉が浮かんだが、今の私の気持ちとしても同感である。 「まだ昼過ぎくらいだけど後は何するの?」  もう明日の話をしているけれど、今日だってまだまだこれからなのだ。 「後は畑にでも行こうかな~」  クマさんはそう言って重い腰(物理的に)を上げる。  そうは言っても、大根畑以外の畑なんて一体どこにあるの? 大根畑は先週根こそぎ引っこ抜いちゃったから、特にやることはないはずだけど……。 「ついといで~」  クマさんは思案する私を手招きし、コテージのドアを開ける。渋々ついて行く私は、クマさんが大根畑の方角に向かっていることに気がつき、あの畑で何をするつもりなのか真面目に分からなくなっていた。  私達が歩くこと数分。例の大根畑にやって来た。当然ながら何も埋まってない。 「ここで何するの?」 「うん? まだだよ。こっちこっち」  クマさんが再び私を手招きするのでついて行くと、畑の側に小さな切株があった。そこの切株をクマさんが一息に踏みぬくと、切株の後ろの地面がゴロゴロいいながら開いていき、地下への階段が姿を現した。 「嘘……でしょ?」  私はあまりの事態に呆然とする。 「ようこそ! アンダー農園へ!!」  振り返ったクマさんは、驚く私に満足そうに頷くと、両手を真上に掲げてそう宣言したのだった。
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