吉夢

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「……そこいるんですね? 警戒するのも仕方ないでしょう。わかりました、今から言うことをそこでよく聞いてください。先ほど、催眠研究所の所長が遺体で発見されました。実は以前から、所長は何度も警察に相談していたんです。怪しい相談者にをかけるよう強要されている、と。内容が内容だけに、我々も聞き流してしまっていたんです…。完全に警察の落ち度だ。恐らく所長は根負けして、とうとうその相談者に催眠を施してしまったんでしょう。あなたは後催眠暗示というのをご存知ですか?」  この男は関係のない話をして、私を惑わそうとしているのだろうか?  それとも、本当に本物の警察……?  そこで私は握りしめた包丁に自分の顔が映っているのに気付いた。何故かその鏡像に違和感を覚えて、私は包丁を目の前にかざした。 「術者は被験者に対してある命令的な暗示をかけます。覚醒後、被験者はそのことを忘れてしまう。しかし実は、ある合図がきっかけとなって、催眠が発動するように仕向けられているんです。催眠の発動条件が起こり次第、被験者はたちまち催眠状態に陥ってしまう」  包丁に映った歯列を覗き込むと、前歯が2本すっかり欠けて無くなっていた。  私は夢と現実の境界が曖昧になるのを感じて頭がぼうっとした。 「その相談者、吉田茂が所長に強要したのはまさに後催眠暗示です。いいですか、吉田は妄信的にあなたを崇拝している狂ったオタク老人なんです。そいつは、ついに自分が望んでいた後催眠暗示を施されたことを確信したのです。そして、二度と暗示が解けないように施術者である所長を殺害した。馬鹿げたことだが、そいつは催眠に効果があると本気で信じ込んでいる。だからこそ所長を殺害したし、必ずあなたに会いに来る」
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