23. カモメのジョナサン

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23. カモメのジョナサン

 私は息苦しくなり、 外の空気が吸いたくなった。 この場所から逃げたくなった。 もう十分。翔太の姿を見ることが出来たから。 翔太は自分を信じて、頑張っている。 それを確認できたから。 しかし私の足は動かなかった。 いざとなれば、この先を通らなくても、 少し逆行して別のギャラリーから外へ出る ことも出来る。 それが分かっていながら、もう少し見ていたいという、相反する衝動に駆られた。 私は翔太を見ていて、 エリス島で見たカモメを思い出した。 群れから1羽離れて、自由に飛ぶカモメ。 そして同時に小学生の時に読んだリチャード・バックの「かもめのジョナサン」の話を思い 出した。 大抵のカモメにとって大切な事は、 餌を探し出す事。 しかし、ジョナサンというカモメは、 食べる事よりも飛ぶ事、しかもより速く飛ぶ 方法を見い出す事に生き甲斐を感じていた。 ジョナサンにとって、「飛ぶこと」は、 自由になる事であり、真の生きる意味だった。 しかし、カモメとしての規律を乱すものとして、群れを追放されてしまう。 それでもジョナサンは、 たった1羽で飛び続けた。 いつの間にか、 このジョナサンが翔太と重なってゆく...... 普通に生きる事に疑問を持ち、 自己への無限の可能性を信じて、 一人でニューヨークへ発った翔太。 みんなと同じ事、それまでに築き上げてきた ものを守る事で満足している私を置いて、 自分の夢に向かって勇気を持って挑んだ翔太。 翔太は正しかったのかもしれない。 翔太の事を「無謀だ」と言っていた友達は、 そして私は、夢を見失っているのかもしれない。 自分の限界を自分で決めつけ、 それを達成して満足している。 またそれさえも手に入れる事が出来ない時は、 自分を受け入れてくれなかった社会や、 大人に不平不満を言う。 自己の限界なんて、こんな若さで計れるわけが ないのに、やれるだけの努力さえもせずに 冷めきっている。
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