1. 私は何がしたいのだろう

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1. 私は何がしたいのだろう

 駅前はここ数年で、高層マンションや 大型ショッピングセンターなどが次々と建ち、 活気付いている。 しかし10分程歩いて住宅地に入れば、 あっという間に静かな場所だ。 私はこの街で生まれ、ごく一般的な両親に 育てられ、何の不自由もなく、今年で24回目 の誕生日を迎えようとしている。  今日は仕事の付き合いで、 好きでもない日本酒を飲まされた。 その後、カラオケに連れて行かれ、 歌いたくもないのに歌わされた。 50、60代のおじさんたちの中で、 一体何を歌えばいいのか。 流行りの曲を歌っても分からないだろうし、 友達と歌う鉄板曲を歌っても一人で浮いて しまいそうだ。 なので、2、3年前の無難な曲を選んだ。 それでも「若い子の歌は難しいな」と言われ、 自分たちはミラーボールが回る中、酔った 勢いでタンバリンをたたきながら、私が聞いた 事もない古い曲を熱唱して盛り上がっている。  見た目は実年齢より若かったり、流行に 敏感な人でも、歌の選曲というのは、正直に その人の年齢に合った時代を感じさせる。  カラオケを歌い終え、私がマイクを元に 戻し、忘れ物がないかチェックしていると、 社長の小泉さんが耳元で「お疲れさま、 助かったよ」と囁き、タクシーチケットを くれて、私は解放された。  駅まで歩いている途中、運よく流している タクシーをつかまえることができ、私は クラウンに乗り込んだ。 感じのよさそうなドライバーに行き先を告げ、 座り心地の良い厚みのあるシートに身を任せた 私は、重い目を閉じ、無邪気に笑う翔太を 思い出していた。 「日本全国制覇したら、五大陸制覇の旅に 行きたいな。世界の景色や人を写真に撮り たいし、絵にも描いて個展を開きたい」 自分の夢を、自信を持って語ることのできる 翔太が羨ましかった...... 「瑞希の夢はなに?」 その問いに私は答えることができなかった。 ―― 私は何がしたいのだろう ――
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