11. 不可抗力

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11. 不可抗力

 体温の高い彼の体に寄り添い、首元へ手を 絡ませ、頭をしっかりとした胸に預ける。 音楽も言葉もいらない。 ただ同じ空気を吸い、 同じ時間を過ごしているだけ。 微かに聞こえるのは、彼の呼吸と鼓動。 規則正しい鼓動が、私の骨にまで響き、 まるで私と彼の心臓の高なりが一体になったかのよう。 だんだん彼の呼吸が深くなり、 私は彼に手を引かれるかのように、 共に深い闇へと落ちてゆく......  私は夢を見ていた。 大きなシーソーに乗った私は、 どんどん青い空に向かって高く上がっていく。 体が軽く、まるで自分の羽で空を飛んでいるようだった。 すると私の前に、 カラフルなカクテルが並んでいた。 私は、モスコミュール、オーシャンブルー、 アーマイダマティーニ、キールと、順番に 飲んでいった。 どこからか心が休まる甘味なBGMが流れ、 私はカクテルと音楽に酔いしれた。 すると、突然、私の乗っていたシーソーは 急降下しだし、私の体はどんどん果てしない 深みへ落ちていく。 私は羽を思い出し、 自分の力で飛ぼうと思った。 そして背中にあるはずの羽を広げようとしたが、当然のようにあると思っていた羽は最初から無かった。 不可抗力。 そう、どうもがいても叫んでも、 逆らうことの出来ない力が私を押さえつけた。  自分の声にならない乾いた叫びで、 ハッと目が覚めた時、私は汗をかいていた。 そして手にはものすごい力が込められていた。  隣を見ると、翔太の姿はなかった。 そのかわり、バスルームからシャワーの音が 聞こえる。 私はスリップを着て、5、6歩先の冷蔵庫の 中からミネラルウォーターを取り出し、 音を立てて飲んだ。  窓の外から近くに住んでいる子供たちの 高い笑い声が聞こえた。 私が窓から外を覗くと、すぐ隣の駐車場で、 小学低学年の4,5人の子供たちがフラフープや 縄跳びをして遊んでいた。 (フラフープだ、懐かしい。 小さい頃、お姉ちゃんと遊んだな) 子供という存在は不思議だ。 笑っている顔はもちろんの事、怒っている顔、 すねている顔でも可愛く見える。 姉のところの海君も、そろそろ2歳になる。 「あっ、瑞希起きたんだ。 先にシャワー浴びたよ」 「うん。私も浴びたい」 ボクサーパンツ姿の翔太は首にバスタオルを 掛けていた。 私は翔太の背中に回り、 バスタオルを取って拭いてあげた。 「まだ濡れてるよ」 「まじで?」 いつもそう。 シャワーを浴びた後の翔太の背中は、 いつも濡れている......
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