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13. 成田空港
パスポート、海外保険付きのクレジットカード、モバイルバッテリー......
そして「スマホがあるからいらない」と言っても、父が一番使い易いからと無理やり渡された
マップ。
忘れ物がないか、もう一度確認をした。
「瑞希、これも持って行った方がいいわ」
「あっ、薬ね。忘れるところだった」
「気をつけるのよ。
夜中の外出は絶対に駄目だからね」
「ママ、大丈夫よ。社員旅行なんだから、
私を守ってくれる人は沢山いるわ」
母自身は娘を残して、海外旅行へ簡単に行って
しまうくせに、娘が海外へ行くとなると、
やはり心配らしい。
私は母を少しでも安心させようと旅行先の
スケジュール表を渡し、電話をするからと
言って、家を出た。
成田に着くと、
すでに半分くらいのメンバーが集まっていた。
私はお気に入りのオレンジのスーツケースを
転がしながら、集合場所が確認できる距離を
あけて、イスに座った。
空港には家族旅行のファミリーや出張に向かう
サラリーマン、そして長い夏休みを満喫しようとハイテンションで盛り上がっている学生たちと、幅広い年代の人々が集まっている。
私が足元に目を落とすと、一面ガラス張りの
窓から太陽の光が透過し陽だまりが出来ていた。
そのガラスの向こうには小さな飛行機が見え、
目の前の空港に降下しようとしていた。
翔太が大学生活にも私にも休止符を打ち、
この空港から飛び立ってから3年が経つ。
実際にはいつ発ったのかは定かではなかった。
でもしばらく経ってから、翔太と一番仲の
良かった健君が教えてくれた事がある。
―― メトロポリタンで絵を勉強している ――
どこに住んでいるのかも、どこのスクールに
通っているのかも何も知らない。
ただ分かっているのはメトロポリタンに時々、
姿を現す事......
私は何を期待しているのだろうか。
何を望んでいるのだろうか。
社員旅行でアメリカへ行くだけなのに、
ただそれだけなのに。
いくら自問しても答えが出る事はなく、
自分の気持ちをどうにか紛らわそうとするの
だが、気付くと翔太の事ばかり考えている
私は、気が重かった。
(なんで、ニューヨークに行きたいなんて
言っちゃったんだろう。
何かが変わる訳でもないのに。
会える訳でもないのに......)
この3年の間で私は、2つの恋をした。
翔太の事を忘れる為に、寂しさを紛らわす為に......
でも2回とも、自分から別れを告げた。
お互いを探り合っている最初の頃はまだいい。
だが時間が経つと哀しくなるのだ。
気付くと翔太の姿と重ねてしまい、
いつか別れが来ると。
そう自分で決めつけていた。
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