21. 本物の世界観

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21. 本物の世界観

 5日目の朝、昨日と同じスーパーに行き、 優しい笑顔のおじさんにサンドウィッチを 作って貰った。 今日は、おじさんが勧めてくれたビーンズと スモークサーモンの入ったサンドだ。 私の事を覚えていてくれたおじさんは、 紙袋を渡してくれる時に「明日も来るかい?」 と冗談っぽく言った。 私は「明日の午後、日本へ帰るけど、 時間があったら、友達と一緒に来ます」と 笑って答えた。 セントラルパークにはパーク内を周ってくれる 馬車がずらりと道沿いに並んでいた。 その近くにベンチが空いていたので、 私はそこで朝食をとった。 隣のベンチでは、映画に出てきそうなお洒落な おじいさんが読書をしていた。 ラフな格好で犬の散歩に来ている人や、 木の実を楽しげに拾っている子供。 芝生の上に寝転びながら話をしている男女。 誰もが人の目を気にせずに、 自分のしたい事をしている。  10時前に到着すると、開館時間を待つ人が、 メトロポリタン前の階段や噴水に腰かけていた。   学校の教科書にも出ていたアンリ・ルソー。 彼の絵は動物や植物というイメージがあるが、 何故かそれぞれの大きさが、普通ではない。 「ライオンの食事」の絵画では、 オレンジと白の花に見下されるように、 ライオンが小さくなっている。 独特の世界があり、幻想的な絵だ。 次に目に留まったのは、 ピカソの「アルルカン」。 深い青、群青色というのだろうか。 全体的にこの色を使っている為に、 アルルカンという青年の表情が とても寂しそうに感じられる。 道化師のような格好をし、 首から顔まで真っ白にメイクをした彼は、 一体、何を考えているのだろう。 誰もが知り、何度も目にしたことのある 作品でも、やはり本物は違う。 本物が放つ迫力、高い技術、質感やサイズ感。 巨匠たちが細部まで描き込んだ作品のすみずみ まで見落とすまいと目を凝らし、 その世界観に浸れる特別な時間。  集中し過ぎて、身体的な疲れと精神的な 疲れた感じた私は、館内のカフェでランチを とる事にした。 サラダとラザニアを注文し、 端の方の席に着いた。 食べ終わってからも、まだ目の疲れが取れなかったので、目薬をさし、しばらく目を閉じていた。 その後、近代美術を見て回り、最後の楽しみにしておいたヨーロッパ美術に向かった。
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