24. アンクレット

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24. アンクレット

 自らリスクを背負い、チャレンジし続けて いる翔太の背中を見ていて私は、 胸を締め付けられるようなやるせなさを感じ、 自分が情けなくなった。 自分の世界をどんどん広げて大きくなっていく 翔太が眩しく感じた。 その時、一人の女性が現れ、他の観光客に 迷惑にならないように何やら合図をした。 すると今まで静かだった若者たちが、 少しざわつき、 どんどん道具が片付けられてゆく。 筆がしまわれ、キャンバスがたたまれた。 そして隣の友達と何か囁くように話をした 翔太も、立ち上がり、腰を抑えるようにして 伸びをした。 そして静かに出口に向かって歩き出した。 その足元に私は釘付けになった。 翔太は左足首に、 黒い革紐のアンクレットを付けていた。 それに、小さな赤い飾りが見えたのだ。 見間違えだろうか、たまたまだろうか。 私の脳裏には、私が翔太の部屋に置いてきて しまったアンクレットが浮かんで消えなかった。   私はまるでテレビでも見ているかのように、 それを眺め、そして翔太の消えていく背中を 目で追っていた。 画材を持った最後の若者が出口に向かうのを 確認してから私は、無意識に着いて行った。 声を掛けるつもりはない。 だけど、もう一度だけ確かめたかった。 もう一度だけ翔太の姿を見てから、 ホテルへ戻ろうと自分に言いきかせ、 日差しが肌に刺さるような外へと出た。 気温や湿度が、朝よりも上がったようで、 ムッとした。
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