5. 夢なんてない

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5. 夢なんてない

 私の父は大手の輸入会社に勤めており、 月に一度は仕事で海外へ行っている。 時には母を連れて旅行を兼ねて出張へ行くこと もある。 母は、趣味のお菓子作りを活かして、 自宅でクッキング教室をしている。 父も母も育児という役割を終える事により、 価値観も変わってきて、それぞれ自分たちの 時間を楽しんでいるようだ。 私には4歳上の姉がおり、今は車で15分程の ところに住んでいる。 2年前に結婚をし、6ヶ月になる男の子がいる。 名前は「海」。 まだ小さくて愛らしい「かい君」だが、 将来は大きく澄んだ心を持って欲しいと願い、 名付けたそうだ。  私は学生生活を学校成績という一種の評価を 第一に過ごしてきた。 小学生の時から学習塾に通い、そろばん、 ピアノ、英会話と、親の言う通りに習い事を こなした。 偏差値の高い大学に進学すれば、父のような 有名な会社に勤められ、自分の力を発揮できる 仕事に就けると信じていたからだ。 だから一生懸命、勉強をして、難関大学へ 入学した。 ―― 将来の夢 ―― 小学校、中学校、高校。学校の先生はみんな 生徒に夢を持てと言う。 サッカー選手、パティシエ、医師、保育士...... 正直、私は自分が何になりたいのか想像が できず、夢なんてなかった。 だから、女子なら一度は憧れる「キャビン アテンダントになりたい」と言っていた。 そう言っておれば、両親は安心した顔をしたし、将来の夢について書く作文はスラスラと 書けた。 友達からも「美人で頭の良い瑞希ならCAが ぴったり」と褒められた......  大学に入ってからも受験勉強の一環として 毎朝読んでいた経済新聞やネットニュースを チェックする習慣は抜けなかった。 そして、今の世界情勢、日本経済、政治を 見れば見るほど、知れば知るほど、私は 今している事が無駄のような気がしてきた...... いくらレベルの高い大学を出ても、希望する 企業に就職できる訳ではない。 そして運良く企業に入れても、女性は特に、 やりたい仕事が出来る環境ではないと。 結局、日本の企業では、女性は低い給料で 雑用ばかりの総務行きがほとんどだと。 そんな気がしてきたのだ。  父にこの話をすると「実力のある女性なら、 男性社員を仕切る事だって可能だ」と言う。 しかし、腰掛けで短期間だが、一般企業に 勤めていた、同じ年代の姉に聞くと「人事って いうのは、足りない部署に人を配置するところ よ。これは女性に限らず男性もね。自分が本当 にやりたい仕事をやっている人なんて、 ほとんどいないと思う」と言う。  私は姉の生き方を間近で見ていて、社会に 出てからは学歴なんて関係ないとも分かった。 姉もキャリアウーマンを夢見て大学を卒業し、 その間に語学留学までしている。 なのに、若さだけを武器に働いているOLと 共に同じような仕事をし、そしてあっと言う 間に玉の輿だ。 そして専業主婦になり、 今は子育てに追われている。 姉に聞いたことがある。 「後悔してない?」 すると即答された。 「私の人生はこんなものよ。でも幸せよ」 それで私は一気に冷めた。 難しく考えるのは、やめよう。 私が社会に出る4年後に何が起きているか なんて分からない。 とりあえず、 目の前の大学生活を充実させよう......
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