雨にはる

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 駅に到着して、 「こんな日に送り出してしまうなんて、恨まないでね」私が言うと 「恨んだりしないよ」彼は笑った。 「楽しかったね」 「うん」 「ありがとう。私はもう大丈夫だよ」  父を喪ったこと、そばにいてくれたこと、ありがとう。もう大丈夫だから――私は心の中でもう一度言った。 「うん」  彼はさっきと変わらぬ調子で答える。  幸せになってね――。  そんな言葉をきっと最後には言えると思っていた。二人はもうだめだとわかってからも、長く一緒に過ごし、もう恋人のようでもなく、家族みたいな、どこか友達みたいな感じでもあったから。  けれど、言えなかった。かわりに、  行かないで――そんな言葉が出てきた。  やっぱりまだ、そばにいてほしい。  最後に冗談交じりに訊いてみる。 「もし、何かあったら呼んでもいい?」 「うん。いいよ」 「夜、寂しくなったら?」 「うん」 「あ、夜じゃなくて、こうやって昼でも雨が降ったりさ、暗い日に寂しくなったときは?」 「いいよ」 「部屋にゴキブリが出たら? 私、一人で退治できないよ」 「うん、呼んでいいよ」  彼の優しさが、愚直なまでに「呼んでいいよ」を繰り返す彼にムカついて、 「馬鹿。呼ぶわけないよ。訊いただけ」  バンと肩をはたきながら笑って言うと、 「なんだ、それ。わかった。でも、本当に辛いときは呼んで」  真っ直ぐにこちらを見て言うので、本当は別れないほうがいいんじゃないか。好きな人ができたとは一言も彼の口からは聞いていない。だったら、まだやり直せるんじゃないか、もう一度、最初から――。  今更そんな思いが胸に溢れてきて止まらない。
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