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冷蔵スペースはほとんどが缶ビールと納豆と豆腐。冷凍室は餃子と米とお肉で埋め尽くされた冷蔵庫。グラタンを作るぞ、と意気込みだけで買った値の張ったトースター。半年前から映りの悪いテレビ。
彼だけの荷物というのは数えるほどしかなく、というか、郵送する先も決まっていなかったので、置いていくという感じ。
彼がいなくなったあとも、私がここに住むのだろうと当たり前のように彼は思っているらしい。
だから、
「俺はいらないから、京ちゃん使って」
なんて、優しい声で言うのだ。
脱ぎ捨ててベッドの脇に落ちた柔らかいタオル生地のパジャマとか、洗面台に並ぶ大人が使うにはかわいすぎるキャラもののコップとか、だらしなく脱衣所に散らばるカラフルな靴下とか、グレーとかグリーンにも見える、いくつものブルーが合わさり海みたいな色をしたクローゼットの中とか――そういうものを全部なくしたら、この部屋は今、別の顔をしている。
彼にとっては、それが優しさのつもりなんだろうが、いなくなった相手と使った思い出の家具を同じ空間で使い続けられるほど、私の心臓は強くはない。彼の思う優しさは、私の思うそれとは違うのだと、冗談交じりにも、本気の喧嘩でも、何度も言い、そのたびに
「難しいことはわからないけど、俺は京ちゃんに優しくしたいだけだよ」
と言う彼のことを、やっぱり嫌いになれなくて四年間、そうやって過ごした。
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