真実

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「滝中は絶対、心を入れ替えることなくワルのままこっちに戻ってくる。そしたら大変だ。私があいつなら、真っ先に藤岡実里を殺すね。藤岡のせいで警察に捕まってしまった。藤岡のせいで、何年かを狭苦しい建物の中で過ごすハメになったんだと恨まれる。放っておくはずがないよ。施設に入ってる間、あいつにどう復讐してやろうかとそればかり考えてるだろうね。もしかしたら、あまりに腹が立って施設を脱走するかもして私を殺しにくるかもしれない」 実里は言葉を止めた。 「そんな勝手な逆恨みなんて、絶対に許されないよ」 「でもさ、滝中は手がつけられないんだよ。私を殺しにくるってのは確かに極端だけど、絶対何かはやってくる。しかも父親は暴力団の関係者だよ?自分の娘に頼まれて、組織ぐるみで何かやってくることは十分に考えられる。あいつの父親、いつもは威張ってるくせに、娘に対してはめちゃくちゃ甘いらしいし。もしほんとにそういう行動に相手が出たらどうする?お姉ちゃんは私を守れる?」 「うん。もちろんよ」 私は笑顔で実里の肩を二度三度叩いた。 「どうやって?」 「それは…」 見栄を切ったものの、実際にどう守るのかと問われると言葉に詰まってしまった。 報復の可能性があるので警戒してほしいと警察に頼む?いや、警察は、発生した犯罪の捜査しかしない。犯罪が起こってからしか動かない組織なのだ。犯罪の予防にはあまり積極的にはなってくれないだろう。だが、私費でガードマンを雇うのも無理。どこにそんなお金がある。 両親に相談して滝中の屋敷に乗り込み、直談判する。いや、無理だ。いったいどうやってヤクザを説き伏せるのだ。うちの父親はそんな器量もなければ迫力もない。 住民運動はどうだろう。滝中美琴の補導を機に、地域から暴力を排除する運動を起こす。いや、これもだめだ。相手が相手だけに、誰も協力してもらえないだろう。 確かに、向こうがその気になれば、こちらの防衛手段はあまり考えつかないというのが現実だった。
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