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頷く巫女二人の指す場所へと、私は幅2メートルほどある石畳に足を踏み入れ崖の上をゆっくりと歩き始める。
これ落ちたら死ぬやつだよね?
私は、慎重に進み、白い雲に槍が届く位置まで来る。
白い雲のような物を近くにみると、たしかに露だと言われればそうだと思える大きな水玉があるのが見えた。
それを私は槍の刃先で切り払う。
すると、浮いていた水玉が弾けて下へと落ちていく。
椿さんの説明によれば、この水玉は地上の邪気が固まって上がって来たものだと言うこと。
それを、悪しき物を滅する事が出来る神器の槍で切る事で浄化出来ると。
そして浄化されると地上に降り注ぐ雨になるとのことだった。
それからはこれの繰り返しだった。
黙々と作業を繰り返していくと、露が無くなった辺りの白い雲が薄く消えていくのが判った。
そして、もう一つ。
露を切り払う度に、私は自分の忘れていた記憶を思い出していた。
『お誕生日、おめでとう。』
6歳だったかな…父と母が大きな熊のぬいぐるみをくれた日だった。
『お誕生日、おめでとう。』
これは、10歳の誕生日だ。父と母が、祖母の家で祝ってくれた最後の誕生日の日だった。
『雫。パパとママは2週間ほど、海外にいかなくちゃならなくなったんだ。だからその間はおばあちゃんとこの家で待っていて欲しい。』
私はこの時、熱を出して一緒に行く事が出来ない事にいっぱい泣いた。それを、おばあちゃんが一生懸命なぐさめてくれた。
小さかった頃の、両親との思い出。
私をずっと支えてくれた、お祖母ちゃん。
友達と楽しかった思い出や喧嘩した時。
なんでもない事から、どうして忘れてしまったのかと思うような大事な出来事。
露を切り払う度に、鮮明に蘇ってくる。
「露払い様、お時間です。」
私は椿さんの声で、記憶の夢から現実へと意識が戻った事に気付く。
気付けば、空は蒼から茜色に移ろうとしていた。
「あれ? もうそんな時間なんだ…」
無心で露払いをしていたはずが、どうして思い出に浸ることになったんだろう?
私は始めた頃よりは、見通しが良くなった地上の景色を眺めながら、二人の巫女さんが待つ崖へと戻る。
「上手く出来ていましたか?」
「はい。問題なく露払いの儀が執り行われていました。」
「そっか。良かったです。」
椿さんと藍さんの見せる笑顔に、私は安堵と達成出来た嬉しさの笑みを溢してした。
神社に戻ると、見送られた場所から動いていないシラハさんが笑みを浮かべて私へと歩いて来る。
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