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祖母の想いを知ったのは高校に上がる前だった。
寂しくて泣いている日が多かった私が、前を向いて進むためだったことを学園長から聞かされた。 祖母と学園長が知り合いだった事もその日に知った。
「あっ…えっと…」
『亡くなりました。』と言えば良いだけの事だったけど、私は自分の口からそれを言葉にするのが出来なかった。
「……買い物かな?」
私の心の中の空気みたいなものが重くなるような感じに、私は無言で顔をしかめていた。
「大丈夫ですか?…どこか具合でも?…」
窓の外の白い人影が近くに寄って来ているのだけは判った。
私は心の重みを押し出すように、大きく深呼吸をした。
「いえ。もう大丈夫です。えっと…祖母は、去年の冬に…この世を去りました。」
私は気丈さを保つ為に、窓枠を握っていた。
「それは…申し訳ありません…お悔やみ申し上げます。」
私の心に気付いたのだろうか? その言葉には、私への謝罪が入っていた。
その気遣いに、まだ見えない目の前の人物の暖かさを感じた。
「良ければ、線香をあげて行かれませんか? あっ、今玄関を開けますから、そちらから入って下さい。」
白い影が傘をさしていない事に気付いた私は、合羽を着ているのかもしれないけれど、それでもこの雨の中に立っていたのだから、寒さを感じているだろうと思い、厚手のバスタオルを準備してから玄関の扉を開ける。
玄関を開けても人影は無く、私は庭に視線を向けると、まだそこに白い影が立っているのが見えた。
私はサンダルを履いて庭に入ると、白い影がゆらっと動いたと思ったら、目の前に白い人影があった。
「それでは、約束を果たしましょう。」
そう言って私の手を掴んだ白い手は凍りつきそうなほど冷たかった。
ずっと白い影だったその人は、白いローブのような服を着ていて、薄い銀髪のような白い髪が背中辺りまであり、中性的な顔立ちと声で男性なのか女性なのか判らなかった。
私は掴まれた手を振り解こうと力を入れるが、突然、足が浮く感じで引っ張られていく。
「えっ?! なに! ちょっと! 放してください!?」
私は手に持っていたタオルを地面に落としていた。
私は怖くなり、力を込めて地面に踏ん張ろうとするが地面の感覚が無い事に気づく。
そして私は恐怖を感じながらも、白い霧の中を移動していることだけは理解できていた。
風鈴の音が小さくなっていく。
「では、参りましょう。」
白い人がそう言った瞬間、白い霧がより一層と濃くなり、引かれている自分の手が見えなくなるほどの、真っ白の世界に吸い込まれていった。
私は怖くなって目を瞑っていた。
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