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「着きましたよ。ようこそ、私達の国へ。」
握られた手が離れたことと、白い人の声で私は目を開ける。
靄がかかったような景色が目の前にあったけど、100メートルぐらい先に見えるのは1本道の左右に並ぶ家々。 建物は京都の古い町並みのような感じで、だけどレンガ壁の洋風の家もあった。
そして道を行き交う人達も、景色に溶け込むように着物姿の人達と洋服の人達だった。
私はどうやら、朱色の小さな鳥居からこの世界に来たようだ。
振り返ると、数十メートル先は崖になっているみたいで空が広がっている。
ここが違う世界だという事は、いままでの経緯と目の前に広がる景色ですぐに理解できた。
「ここはどこですか?」
私を連れてきた人物を私は確かめるように見る。
絹のような艶やかで白い古代中国のようなローブに、白銀の長髪。
身長180cm以上はありそうな長身で、細身。
顔は美男子の部類に入る整った顔で、30代にも40代にも見える。
物静かに佇む姿は、高貴さを感じる。
そして、あの雨の中にずっと立っていたはずなのに、どこも濡れてはいなかった。
「ここは、常世の世界。現世と対なる国です。」
「それって、死後の世界って事ですか?」
私が強張った表情になっていたのだろうか、白い人は笑みを返して「違います。」と言った。
「それもこの常世にありますが、この場所ではありません。ここは夜々の里、あやかし達が住む国です。」
あやかしって…そんな場所に何故私が?
ううん…ここに祖母が来ていたんだよね…
私は何故か、教えて貰ってはいなかったけど、そう確信することが出来た。
「それでは、行きましょう。」
そう言った白い人に、私はまた手を掴まれた。
今度は優しく、迷子にならないように子供の手を引くように。
私は黙って付いて行く事にした。
並木通りになっていた道から商店街になっている街道に入ると、すれ違う人々が白い人に頭を下げていく。
地位の高い人なのかだろうか?
私は、そのすれ違う人達にどう返せば良いのか判らなかったので、下を向いたまま白い人の手に引かれていった。
「着きましたよ。」
落ち着いた雰囲気の日本家屋の玄関の前で止まり、白い人は大きなベルが付いた扉を開ける。
『ガランガラン』と音を鳴らして開けられた扉から家の中を見ると、小さな和服店だった。
「いらっしゃいませ。旦那様じゃないですかって、あらあら……大丈夫ですか?」
和服姿の40代くらいの女性が、慌てて駆け寄ってくる。
「お連れの方、濡れているではないですか。」
「ああ、彼女に着替えを頼む。」
「はいはい。判りました。」
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