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「それで、これはお願いなのですが、君にその仕事を今年だけでも良いので、やってはくれないだでしょうか?」
「祖母の代理って事ですよね?」
「はい、そうです。」
私は「謹んで受けさせて頂きます。」と頭を下げる。
あの日出来なかった罪滅ぼし…そんな想いが一瞬心に宿ったけど、私は祖母へと恩返しの一つになればという想いがそれを覆い被さるように消していった。
それから私は、仕事内容を詳しく訊ねた。
夕刻の2時間ほどの作業『露払い』を、2週間かけて繰り返し行うこと。
『露払い』前に、神社で清めの儀を受けてからになるので、昼ぐらいからこっちの世界に来ることになるということ。
私は大学に通ってはいるが、自主練習という名目で今は自宅に篭っているいるから問題はなかった。
そして私は、気になっていた事を訊ねた。
「私は祖母の代理ですけど、願い事って叶えてくれるのでしょうか?」
「はい。勿論、貴女の願いを一つ叶える事が出来ますよ。」
「どんな願いも叶えてくれるのですか? 例えば…死んだ人を蘇らせるとか…」
白い人は悲しそうな笑みを浮かべて、首を横に振った。
「それは出来ないのですよ。ですが、過去に行ってその人と話をするのは出来ますよ。」
どうして、私の後悔をこの人は知っているの?
ちがう。たぶん同じ願いを願った人がいるのだろう。私と同じ気持ちだった人が過去にいたのだとおもう。
お店を出た私は、また手を繋がれて商店街の奥へと歩いていく。
行き交う人達から、「おや? 旦那様」とか、「旦那様、ごきげんよう。」とか、「露払い様。今年もよろしくお願いします。」とかの挨拶を受けながら、私は大きな鳥居と緩やかな上がる石階段の前に着いていた。
500メートルほどの石段を上がり、やっと境内に入る鳥居をくぐった私の目には、朱色に染まった神社と、雲が一つも無い青い空が視界に飛び込んでくる。
足元には玉砂利が敷き詰められた広い境内。
その境内の正面には大きな拝殿があり、左右にもそれと同等の建物が建っている。
正面からでも見える拝殿の奥の建物がどの建物よりも大きくて、それが本殿だと判る。
「白芭! 遅いぞ。」
誰も居ないはずだった拝殿前に、小さな着物姿の少女が立っていた。
「姫様…」
その少女に向かって、白い人が困ったような顔を見せていた。
少女の視線が私に向いた。
「月子じゃないんだな……お前は月子に似ているな。」
「はい。孫の雫といいます。」
「そうか、雫か。またそれも良い名だ。」
「ありがとうございます。」
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