『露払い』 雫の章

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 姫様と呼ばれ、白い人を「シラハ」と呼んでいた事で、見た目の少女としての態度では失礼になると思い、私は丁寧に言葉を返す。  それから、白い人の名前を知ることが出来たことに安堵する自分がいた。  聞きそびれていたんだよね… 「シラハさんって言うのですか?」 「ああ~。それは我が付けた呼び名じゃ。真名は長くて呼びにくいからな。」 「そうなんですか。」  この常世では、格のある相手の真名を口に出すのは失礼にあたるから、あだ名的な呼び名を使うとの事でした。 「じゃあ、私もシラハさんと呼んでも良いのでしょうか?」 「はい。それで結構ですよ。」  私の中の白い人は改め、シラハさんになりました。 「それで、今年の露払いが雫になったのは、なぜじゃ?」 「月子さんは、黄泉国(よもつくに)へと導かれました。」 「そうか…それは気付かなかったな。なら、今からあっちに行って見るか。雫よ、今年の露払いよろしくな。」  そう、言い終わったと思ったら、姫様は黒い影のような物に包まれて消えてしまった。 「あっちって…もしかして、あの世の事ですか?」 「ええ、貴方達が言うところの黄泉(よみ)の国です。」  そっか…  私は会って謝りたいと思ったけど、黄泉の国に入ることは出来ない事くらいは、聞かなくても知っていた。  生きた人間が行ける場所ではないことを。 「主様、お帰りなさいませ。」  本殿の方から巫女服を着た若い女性が二人歩いてきた。  「露払い様、お待ちしておりました。」  私達を出迎えたのは、青の袴と赤の袴を着た二人の巫女さんだった。    すっごい美人でモデルみたい。そして二人とも胸が大きい…  童顔・寸胴の私とは、次元が違う。  生物学的に別物です。住む世界が違う。  って、あやかしだし、そりゃそうか。  なんて…明後日の方向に思考が走っている間に、ハクさんから、赤い巫女さんが『椿』、青い巫女さんが『藍』と教えられる。 「本日から、露払いの儀を行いますか?」  赤の巫女さんからの問いに、シラさんが答えるのかと待っていたら、シラハさんの視線が私を見ていた。 「はい。よろしくお願いします。」  私は勢いを込めた返事をして、頭を下げた。  ニッコリと笑みを見せた椿さんと藍さんの二人に連れて行かれたのは、本殿裏の小さな社のような建物だった。 「露払いの時は、この中で神水で清めてもらい、神衣に着替えて貰います。ですので、今から清めの儀を始めたいと思います。」 「はい。宜しくお願いします。」
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