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私は二人の後に社へと入り、土間で靴を脱いで上がり框からの板間に上がると、二人の巫女さんが目の前にある襖を開ける。
私は開け放たれた部屋の正面の壁、その一面が大きな神棚ようになっている場所に飾られている1本の槍に目を奪われる。
「すごい綺麗な槍ですね。」
「はい。この地を守る神器の一つです。」
赤い巫女服の椿さんがその神棚から、花瓶のような白い陶器を持ってくる。
「それでは、清めの儀を始めます。」
椿さんと藍さんの二人に着物を脱がされ、神水と言われたさっきの白い器から杯に移した水を、額・胸・へその下と、判をするように指で押され、最後に私は指示された通りに杯の水を飲み干す。
それから、真っ白い袴の和服に着替えて『露払い』の準備を整えました。
「では、神器の槍を持って参りましょう。」
青い巫女服の藍さんが、手ほどきするように示す先の槍へと私は視線を向けていた。
「えっ?! この槍を私が扱うのですか?」
神器と聞いていた物を自身が触る事になるなんて思ってもみなかった私は、驚きと困惑の気持ちで一杯になっていた。
「はい。この槍で露を払って頂きます。」
「そっ…そうなんですか…判りました。大切に扱わせて頂きます。」
私は恐る恐るという気持ちで、飾られている槍へと手を伸ばす。
そして両手でしっかりと握ってから、ゆっくりと持ち上げる。
「えっ!? 軽い…」
「神器ですからね。」
藍さんの言葉に納得した私は、薙刀の構えの一つになっている脇構えで、改めてしっかりと槍の感触を確かめる。
「重みは無いですけど、手に伝わる重量感は確かにありますね。なにか不思議な感じです。」
「気を込めた手を動かすような、そういう感覚に近いかもしれませんね。」
「あ~なんとなく判ります。」
もちろん、手に気を込めた事がない私だったけど、そのニュアンスでしっくりとくるものがあった。
本気の試合、気持ち的に真剣勝負をしている時の薙刀の重みに似ていたから。
神社前に戻った私を、待っていたシラハさんがその場から動くこともなく、笑みを浮かべて頭を下げていた。
私は椿さんと藍さんに連れられて神社の左手の道を進み、少しすると崖の手前に出た。
眼下には漂って溜まったような白い雲のようなものが一面に広がっている。
下を良く見ると山の木々と、街の明かりらしい光が微かに見えていた。
「では、こちらに。」
二人に示された場所に立つと石畳の道が浮かびあがり、それは白い雲の中にまで伸びていく。
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