371人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「あの。せめて、お礼をさせてください。……なにかのかたちで」
「いえ。男として当然のことをしたまでですから。礼には及びませんよ」
クールな印象の男は存外、やわらかく笑った。笑った顔がキュートでもある。
痴漢野郎を捕まえるために、こちらの男性は、警察に付き添ってくれ、証言までしてくれた。会社に、遅刻する旨は伝えている。どうせわたしのしている仕事なんて他のひとにも出来るからと……卑屈な自分も、発見してしまう。
「にしてもあの沿線って痴漢がいるって本当なんですね。……あの男に関しては妻子がいるってことで流石にもう、やらないでしょうが……。福浦さん、今後の出勤は、大丈夫そうですか?」
わたしが痴漢被害を受けたのは一度や二度ではなく。だから……この、女という性が、うとましくもなる。誰からも必要とされていないのに。変な連中の、性の、掃き溜めにされる自分が、みじめで、滑稽で……。
「あの……、わたしの名前をどうして……」
最初のコメントを投稿しよう!