だから、そばにいさせて。

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Ⅷ  抱きしめてキスをして  譲に別れを告げて、龍樹は忍のバイクの後ろに乗ってホテルを後にした。  土曜日の朝はそれなりに混んでいて、マンションに着いたのは九時近くになっていた。 「疲れてんのに、運転サンキュ」 「おう、後で労わってくれ」 「忍、そればっか」  駐輪場にバイクを停めて、ふたりはヘルメットをぶら下げながらエレベーターに乗り込んだ。 「龍樹、眠くねえ?」 「すげえ眠い」 「とりあえず、寝るか」 「そだな。まず爆睡してから考えよーぜ」  ポーン、とエレベーターが停止して、忍がカードキーと暗証番号でドアを開けた。 「ただいまーって、ン!」  続いて入った龍樹が、玄関先で忍に抱きしめられて激しく口接けられた。 「ン、ンン…」  譲の前でされたのとはまるで違う、激しい口接け。身体をまさぐる熱い掌。  ぞくぞくと甘い痺れが背筋を駆け抜けていく。 「は、もうっ、先に寝るって、言っただろ」  忍を引きはがして、ドキドキしてしまいそうな自分を必死に抑える。 「一緒に、寝たい。俺のベッド来いよ」  同じ家にいて同じ部屋で寝たことなど、一度もなかった。  龍樹がリビングでテレビを見ながら寝落ちして、そのままソファで朝までということは何度もあったが。 「眠いから、ちゃんと寝かせてくれよ?」 「わかったって。シモンズのダブルベッドで、寝心地は抜群だ」 「それって、俺と出会うのわかってたから?」 「もちろん。今まで寂しかったぜ?」 「…ばーか」  クスクスと笑い合って、どちらともなく手をつないで階段を上り、忍の部屋のドアを開けた。  たくさんの難しい本が詰まった本棚と、三台のパソコンのモニターの載ったデスク、ダブルベッド。シンプルな忍の部屋。  ひとりなのにいつも二つ置いてあった、大きな枕。不思議だった。それは龍樹のためだった。  うすい布団をめくって、倒れ込むように寝ころんだ。忍が言うだけあって、寝心地は抜群だ。 「龍樹、どっち向いて寝るの好き?」  向かい合って寝ころびながら、忍が尋ねた。 「んー?右、かな?」 「俺も右。じゃ、俺が腕枕な」 「おう」  促されて、龍樹がころりと右を向いた。忍が腕を伸ばして腕枕をし、後ろから抱きしめる。 「龍樹のにおいがする」 「それ言ったら、ここ忍の部屋で忍のベッドだから、忍のにおいがするんだけど」 「そっか。イヤか?」 「全然?」  ぎゅうっと抱きしめて、忍が龍樹のうなじに口接けた。 「…好きだ」 「うん。俺も」  驚くほど素直に出た言葉に、言った龍樹本人が一番驚いた。 「マジ?龍樹、昨日全然言わなかっただろ」 「恥ずかしかっただけだよ」 「…たまにでいいから、言えよ」 「…わかった。たまにだからな」  とくん、とくん。心音が、重なる。心地よいぬくもり。心地よい呼吸。大切な人の、すべて。 「ねむてえー…」  いつしか、眠りに、落ちてゆく――。 『忍、3番テーブルさん、ホット二つとクラブハウスサンド』 『オーダーOK』 『カウンター片したら、中手伝うな』 『おう。コーヒーセットしてくれ。俺はサンド作るからよろしく』 『了解』  カチャカチャと帰った客のコーヒーカップとケーキ皿を下げながら、龍樹がカウンターの上を布巾で拭いた。  そのまま中へ入り、サイフォン式コーヒーのフラスコとアルコールランプをセットして、龍樹は食器を洗い始めた。 『できたら、俺が出すよ』 『OK 』  手際よくクラブハウスサンドを作り始めた忍を見て、龍樹がほほ笑んだ。 『いつ見ても手際よくてカッコイイな、忍』 『惚れ直したか』 『毎日思ってるって』 『マジかよ』  サンドを作る手を止めて、忍は自分より高い目線の龍樹にちょいちょいと指でしゃがむようにジェスチャーをした。 『ん、一回だけな』  カウンターの下にしゃがんで、ちょん、と唇を重ねて、ふふっと笑い合った。  お互いの首には揃いの指輪が通された、皮ひものネックレス。 『幸せだよ、龍樹』 『俺もだ、忍』  ねえ、だから、そばにいさせて――? 「——ん、ん?ゆ、め?」  目覚めた忍は、腕枕をしている龍樹がまだ眠っていることに気づいた。  …ちがう、今のは、予知夢…!!  どくん、と胸が高鳴った。  今朝冗談で言った、カフェをしようと言った、夢。  それが、リアルにしっかりと現実化していた。髪が伸びて少し大人びていた自分と、龍樹のふたり。揃いのエプロンをつけて、笑い合っていた。  人物がはっきりしている代わりに、いつなのかが、まったくわからなかった。  でも、そう遠い未来ではない。十五センチ差があった龍樹の背丈が、自分を超えていた。  …おまえは、こんなにも俺に幸せをくれるんだな、龍樹。 「愛してる…だから、そばにいさせてくれ。全力で、幸せにするから」  眠る龍樹を起こさないように、忍がそっとささやいた。 「おう、ジジイになるまで責任とれよ」  てっきり寝ているものだと思っていた龍樹が返事をしたので、忍が驚いてびくりとした。 「なっ、起きてたのかよ!」 「ちょうど目が覚めたら、熱烈にコクられたところだったり」  もぞもぞと向き直って、龍樹がこつんと忍に額を合わせた。 「忍、熱烈告白、好きな」 「たまたまそうなるだけだ」  めずらしく照れくさそうにした忍に、にやりと笑った龍樹がちゅっと唇を重ねた。 「嬉しかったから、こっそり言うなよ」 「わかった。言うときは、ちゃんと龍樹に言うから」 「楽しみにしてる」 「そんなしょっちゅう言わねーよ」  嬉しそうに言う龍樹に、嬉しいけれどつい素直になれない自分がいる。つい心にもない言葉を口にしてしまう。 「いいじゃん、減るもんじゃなし」 「わかったよ。愛してるよ、龍樹」 「…なんか、照れるな」  せがんでおいてちょっとはにかんだ龍樹がいとおしくて、忍がぎゅっと抱きしめる。  ラブホテルでは、結局最後まではしなかった。それでも幸せでいっぱいだった。  でも…本音を言うと…。 「なあ、続き、してみねえ?」  忍は意を決して、龍樹に言ってみた。上目遣いで龍樹が答える。 「…ラブホでいっぱいグッズ買ってきたし?」  必要になりそうなものは、ふたりで相談して全部買っていた。家で使えるように。  それは、合意の上でのことだ。その先に、進めることの。 「忍、おまえどっちしてみたい?」  龍樹から案外抵抗なさそうな答えが返ってきて、忍は素直に答えた。 「んー、正直、ヤル方。龍樹は?」 「俺は…どっちも、やってみてえ」 「…どっちも?」  意外な答えが返ってきて一瞬きょとんとした忍が、ふっと笑った。 「いいじゃん、両方してみようぜ。俺はかまわねえよ」  抱こうと、抱かれようと。愛を確かめ合えるのならば…。 「マジで?じゃ、その前に、ググってベンキョしてもいい?」  同じことを考えている龍樹に妙に親近感を覚えて、忍は「おう」と頷いた。  とりあえずどっちが先にするかは、じゃんけんで決めようか…  ――二年後。  背後から覆いかぶさる忍の身体が熱く、汗が滴り落ちる。 「あ、ああ…っ」 「イイか、龍樹…っ」  密着しながら、忍が龍樹の腰を掴み、ゆるゆると揺さぶり続けている。もう何度果てたかもわからないくらい逢瀬の時間は続いていた。 「イイって、言ってんじゃん…っ」  苦し気な喘ぎをこらえながら、龍樹が声を絞り出す。 「もっと、啼けよ…」  食いしばる龍樹の口に、忍が指を這わしてこじ開ける。 「ン、ンン、は、ああ、あっんっ」  舌を指で弄ばれて、恥ずかしいほどの喘ぎ声が漏れる。 「ン、や、めろ、ひのぶっ…!」 「やだね。もっと、もっと啼けよ」  グイっと腰を掴まれて、強く揺さぶられた龍樹が「ン―っ!!」と唸り声をあげた。 「出る…うっ…!」 「俺も…!」  ガクガクと震えた龍樹が、果ててがくりと力尽きた。 「俺を殺す気かよ、忍…何回イカせンだ…」  龍樹が肩で息をしながら、枕元に転がっていたペットボトルのミネラルウォーターを飲んだ。 「おまえが滅多に抱かせないからだろ。何か月ぶりだと思ってるんだ。俺がタチになる予定がおまえがちゃっかりタチになりやがって」  汗ばんだ龍樹の背中に唇を這わせて、忍がキスマークを付ける。 「あ、キスマークつけんなよ。火曜日体育あるのに」 「もう遅い。こっちは久しぶりなんだからいいだろ」 「しゃあねえだろ。ガタイも俺の方がよくなったし、俺がタチのがしっくりくるようになったんだからさ。たまには交代ってことで納得したじゃん」  むくりと起き上がって、龍樹は額をタオルで汗を拭いて身体に飛び散った精液を拭きとった。 「あっという間に俺の身長抜きやがって…十五センチもあったのに、今はおまえの方が背が高いって、おかしいだろ」 「誕生日的にはほぼほぼ一年あいてるんだから、おかしかねーだろ。俺は四月四日、おまえは三月三十一日。同い年でいられるの、たった四日間だけじゃん」  あと二日遅れていれば、忍は学年が一つ下になっていたのだ。そう思えば奇跡だ。 「おまえも水飲めよ。交代な」 「イキまくってんのに、もう交代かよ。勃つのか?」 「ったりめーじゃん。ヤルのとヤられるのは別だよ。おまえに挿れてえ」  ミネラルウォーターを飲み干して濡れた忍の唇を、龍樹がぺろりと舌で舐めた。 「二年ですっかりエロい身体になったな、龍樹」  今、龍樹と忍は大学一年生だ。同じ大学にして、忍は経営学部、龍樹は心理学部に進んだ。  キャンパスでは学部が違うのだが比較的同じ教科を取っていたし、ランチも一緒に取るようしていた。  龍樹は譲の手伝いをこなし、小遣いを稼いで学費をためて自力で大学進学を果たした。  忍はどこでもよかったのだが、龍樹と同じ大学を選んで、今に至る。  将来カフェを開くにしても、経営学を学んでいて損はないと踏んだからだ。  あの日以来、龍樹は忍のベッドで眠るようになった。何もせずに寄り添って眠ることもあれば、朝までむさぼり合って眠ることもある。  想定外だったのが、忍がタチになり、龍樹がネコ、たまにタチになる予定…だったのが、途中で逆になってしまったことだ。  成長期であっという間に身長が伸びた龍樹が、忍の背に追いついたどころが追い越したのだ。そして、「俺、やっぱヤル方がいい」と。  そして話し合いと身体の相性の結果、タチは龍樹、ネコは忍。時々逆パターンあり。ということに落ち着いたのだ。  そうして今の関係に落ち着いて、一年が経とうとしていた。  体格が龍樹の方がよくなり、超能力を使わずして抱くという荒業はできなくなった。  龍樹の了解を得なければ、龍樹を抱くことはできない。  久しぶりに抱いてみれば龍樹の身体は鍛えられていて逞しく、それはそれは色気がダダ洩れで舌なめずりをしたくなるような芸術作品のようだった。  そうしてつい何ラウンドも龍樹を啼かせてしまった忍だったのだ。 「忍、しゃぶってくれよ…」  ウェットティッシュで拭いた後、龍樹は胡坐をかいて忍にせがんだ。エアコンは効いていたが、ふたりとも額に汗がにじんでいた。 「待ってくれ、もうちょい水を補給してからだ…」  忍はベッド脇に置いてあるミニ冷蔵庫からミネラルウォーターを掴んで、ごくりと喉へ流し込んだ。 「こっち、冷えてんぞ」 「おう」  冷えたミネラルウォーターを少し飲んで龍樹は枕元へ置くと、忍の頭を引き寄せた。 「ン…」  唇を重ねる。唇を割って、舌を絡めて、力強く吸った。互いに抱きしめ合って、吐息が漏れる。 「ンン、龍樹…」 「忍、たのむよ」 「急かすなって」  ちゅっと、唇を離した忍がするりと腕を離して、龍樹の隆起した息子に手を添えてぺろりと舌を這わせた。 「は、気持ちい…」  ちゅるちゅると音を立てながら、忍が銜えてすすり上げる。龍樹が頬を上気させて忍の髪に指を絡ませた。 「すげえ、さいこー」  高校時代より伸びた髪を、絡めた指で梳く。龍樹よりさらさらとした忍の髪。龍樹は忍のクセのない髪が好きだった。  昔はいつも頭を撫ぜられてばかりだったが、今はこうして忍の髪を撫ぜることが出来るようになった。 「忍、挿れさせて…」  龍樹がトントンと肩を叩いて、忍を止めた。それ以上続けられると、またイってしまうからだ。 「どっちから?」  いやらしいほどに唾液が付いた口元をグイと拭いながら、忍が起き上がった。 「バックで」 「OK」 「力抜けよ、忍」  ローションを掌に出してのばし、指先に乗せた。指先が襞を押し広げる。 「ンン…」 「大丈夫そうだな」  ぐりぐりとローションをぬり込んで、龍樹は次に自分自身を押し込んだ。ゆっくり、ゆっくり、味わうように、沈めていく。 「あっつ、トロトロじゃん」 「ん、あ…っ…」 「やっぱ、こっちのがいいわ」  忍の腰を掴み、龍樹がゆるゆると体を揺らす。焦らされるような動きに、よつんばいの忍が吐息を漏らした。 「やめろよ、その動き…」 「強い方がイイ?」  背中に覆いかぶさるようにして、深くつながる。はあっと息をついて、今度は腰を掴んで激しく忍の内へと打ち込んだ。 「あ、ああ…っ」  びくんと忍の身体が跳ねる。激しく突かれるたびに、声を抑えようと忍が指を嚙んだ。 「噛むなよ。俺にだけ啼かせといて。ずりいぞ」  忍のあごを掴んで龍樹が口接ける。舌を差し込み、食いしばる歯をこじ開けた。 「ンあ、あ…っ」 「はあっ、いい声。我慢するなよ。おまえの声、好きだ」 「んんっ、は、ああ、あっ…」  突かれるタイミングに合わせて、声が漏れる。その声に反応して、龍樹の身体がぞくぞくと快感に震える。 「忍、すげえ、イイ、もっと…!」  淫靡な音を立てて、龍樹が忍を責め立てる。激しく、何度も、何度も。  いつも繰り返してきた光景。愛情を確かめる行為。愛おしくてたまらない。抱くのも、抱かれるのも。  二年前、ラブホテルでの一件から。恋人となった夜から。初めて抱かれたのはじゃんけんで負けた龍樹だったが、今は抱くことの方が多い。 「啼けよ、忍…!」 「龍樹、は、あ、ああっ…!」  どちらかというと快楽の声を上げることには抵抗があった忍が、龍樹によって今は抵抗することなく身を捩って喘ぐ。  それはとてつもなく嬉しくて、たまらなく、無茶苦茶にしたくなる…。  高校時代、常にクールを装っていた、あの忍が。俺に身を捩って抱かれているなんて。  龍樹が掴んだ腰を、深く突いて、ねじり込む。忍が短い悲鳴を上げた。 「やめ、りゅう、じゅ…っ!」 「やめねえよ、まだだ、まだだよ!」 「ああ、激し、いっ…!」  深くつながれるまでには、時間がかかったけれど。それでも、その過程さえも嬉しくて楽しい時間だった。  忍に愛されていると、自分が忍を同じくらい愛していると、確かめ合える時間。 「イケよ、忍、我慢すんじゃねえ!」  激しく突いて、忍を絶頂へと促す。  「ンああっ…!イク…!!」 「出る…!!」  どくん、と果てていくのがわかる。同時に忍も果てた。タイミングはいつも同じだ。 「愛してる、忍…」  背中からぎゅっと抱きしめて、龍樹は忍と口接けを交わした。互いに息が上がっている。  手早く処理を済ますと、今度こそふたりは完全にごろりとベッドに転がった。 「もっかい、言えよ、龍樹」  甘えたように手を伸ばした忍が龍樹の頬を包む。 「ん、愛してるって?」  くすぐったそうに、延ばされた忍の手に龍樹がちゅっと口接けた。 「最近は照れずに言うようになったな」 「本心だからな。嬉しくねえ?」  恥ずかしかったのは、初めの頃。言わせてばかりだった。  反省しきりで、最近は口に出して伝えるように心がけている龍樹だった。 「嬉しいに決まってる」  額をこつんと合わせてから、唇を重ねた。 「愛してるよ、龍樹」 「おまえ、高校時代より甘えん坊になったな」 「素直になったと言ってくれ」  むにっと龍樹の頬をつまんで、忍が反論する。甘えん坊は嫌らしい。 「俺は今の忍の方が好きだけどな。昔はツンツンしてたからな」 「今はどうなんだよ」 「んー?デレデレ?」  俺の前ではね、と口には出さずに龍樹が唇に笑みを浮かべた。 「俺のイメージ崩すなよ」  照れたように怒る忍に、龍樹がひゃひゃっと声をあげて笑った。 「なんだよ。大学での連れにはまだ猫かぶってんのかよ」 「当たり前だ。知ってるのはおまえだけでいい。だいたい、そんな連れっていうほどの奴、いねえし」 「般教はほぼかぶってるもんな」  学部は違うが一般教養は共通していて、語学や体育などは完全に別だが、選べる教科は同じものが多かったのだ。  そうして時折離れたりはしながらも、連絡を取りつつキャンパスでも行動を共にしている龍樹と忍だ。  同じ高校から進学してきた人間も数名いるので、顔を合わせれば挨拶することもあるが特別仲間意識が芽生えることはなかった。  あまりにもいつも一緒にいるのが当たり前で、他人を入れる隙間がないのだ。 「あ、さっきの仕返しな」  龍樹は忍の胸元に唇を落とし、軽くキスマークをつけた。普段はつけない約束だが、忍につけられたのでやり返したのだ。 「龍樹っ、こんな目立つところに」 「背中なんかかばいようがねえだろ。おあいこだ」 「…悪かったよ。もうつけねえって」  口をとがらせて謝る忍に、あっ!と龍樹が提案する。 「ケツにするとか、どう?」 「悪かねえけど、それもどうかと思うぞ?」 「確かに、色気ねえな…」  互いに想像して、けらけらと笑った。 「今日の予定は?」  枕元のミネラルウォーターを掴みながら、龍樹が尋ねた。 「龍樹を抱きつぶすだけ。明日は昼からカフェのバイト」  忍はコーヒーの淹れ方を学ぶために、日曜だけカフェでバイトをしている。龍樹は譲の手伝いが時折入るので、バイトはしていなかった。 「まだやんの?明日、譲さんの手伝いだから、腰使いものにならなくなるの勘弁しろよな。からかわれんのハズカシーんだから」  ぐびっとミネラルウォーターを喉へ流し込んで、龍樹が呆れたように肩をすくめた。 「ちょうどいいだろ。房中術の方、やっとこうぜ」 「それはありがたいけど、ちょっと休憩。一休みしようぜ。ねみーわ」  汗をぬぐいながら忍にミネラルウォーターを渡し、龍樹は再びごろりと転がった。 「一時休戦だな」  受け取ったボトルを飲み干して、忍も同じように転がり、リモコンを操作して室温を少し下げた。 「今何時?」 「朝五時」 「マジで?昼まで寝ようぜ。疲れた」  ふわあっとあくびをして、龍樹が目をこすった。急激に睡魔が襲ってきたようだ。 「忍、こっち」 「ん」  龍樹の腕枕に身体を預け、忍は薄いタオルケットを龍樹と共にかぶった。 「おやすみ」 「おやすみ、龍樹。ベッド狭くなったな…キングに買い替えようか」 「いいよ、これで…くっついてられるし…」  龍樹が忍のうなじに口接けて、そのまま眠りに落ちた。 「…くすぐったいな…」  幸せなぬくもりに包まれて、忍は目を閉じた。
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