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「風を呼べ!シルフィ!」
船長ケリーソンの怒鳴り声に、シルフィと呼ばれた少女はカップの水を慌てて飲み干し、マストの縄ばしごを小猿のようによじ登った。
レッドヘア発見、という報告があったのだ。甲板の雰囲気が、一気に張りつめた。
このデヒティネは、ティー・クリッパーと呼ばれる種類の帆船だ。スピードが何よりの命。積荷の茶は、いかに早く届くかで、値段が天と地ほども違ってくる。
特に毎年熾烈なトップ争いを繰り広げているのが、デヒティネと、ライバル船レッドヘアの2隻だった。
本国では、どれが一番乗りになるかは注目の的だ。帆船が海運の主役である今の時代、すっかり著名な賭けのひとつとなった。あげく季節の風物詩にまでなっているほどだ。
成功すれば、積荷の茶は初物となる。値段が一気に跳ね上がり、さらに名誉まで手に入るのだ。船主も当然、結果を期待している。
見事それに応えた一昨年は、乗組員への報奨金も大盤振る舞いだった。自然と彼らの今年の働きにも影響する。
「まだか、シルフィ!風呼びの名前が泣くぞ!」
だから船長が声を荒げるのも無理はない。もう半日、無風だった。
そこにレッドヘアの船影が、後方にうっすらと見えてきたのだ。海流に乗ってきたのだろう。風さえ吹き出せば、この距離ならいくらでも追い抜かされる。気が焦るのは、自分だって同じだ。
シルフィはマストのほぼてっぺんにある檣楼に立つと、必死に目を凝らし、求めるものを探した。
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