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一瞬、いななきが聞こえた気がした。
思い出に浸っていたシルフィの意識は、あっという間に現在に引き戻された。せいいっぱいの背伸びをしてその方向を凝視し、耳を澄ませる。
かすかに聞えてくる、ひづめの音。シルフィはにんまりと微笑んだ。だがすぐに引っ込め、グッと腹に力を入れる。
師匠ゲイルは昨年レッドヘアとの競争に敗れ、引退を決意した。今では田舎に引っ込み、風車小屋に風を呼んでいる。
仇と言えば大袈裟だが、それにかなり近い感情が、シルフィの胸の炎を煽る。
風の馬が現れたのは、ちょうどデヒティネとレッドヘアの間だった。今は一頭しかいないが、それを呼び込めば仲間が集まってくる可能性が高まる。シルフィは必死に指笛を鳴らした。おそらく今、レッドヘアの風呼びも同じことをしているだろう。
彼には一度寄港地で会ったことがある。たしか、ヘイエという名の若者だった。東洋の出身だとかで、小柄な身体に黒い髪、黒い瞳だった。
えらくこちらを睨んでくるので声をかけたら、おまえなんか認めない、と言われた。
そういうことを言う奴にはとっくに慣れっこになっていたシルフィは、取り合わずに背を向けた。すると、さらに言われたのだ。
「ブラストが生きていたら、ゲイルもおまえの師匠なんかやらなかっただろ」
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