11人が本棚に入れています
本棚に追加
ブラストはゲイルの戦死した息子だ。比べられたことはなかったが、それでも師匠の心の中を大きく占めていることを、いつでも感じていた。
シルフィにとってのいわば泣き所で、だからそこを突かれてカッとなった。飛びかかって取っ組み合っていたのを、見かねた誰かが知らせたのか、ゲイルがやってきてふたりを引き剥がした。
「ヘイエ、そのぐらいにしておけ」
「だって、ブラストだったら」
「ブラストが死んだのはおまえのせいじゃない。もう忘れるんだ」
その言葉に、ヘイエは急に泣き出しそうな表情になると、逃げるように自分の船に向かって駆け出し、行ってしまった。
「今の、なに」
「おまえは知らなくていい」
「ケンカ売られたのはあたしだよ」
「あぁ、そうだったな。……あいつとブラストは一緒の軍艦に乗ったんだ。あいつは帰ってきて、ブラストはそうじゃなかった。そのことに罪悪感があるのか、事あるごとに息子を引き合いに出す。許してやってくれ」
ああ。あたしをバカにすることで、ブラストの存在を強調したかったのか。不器用な奴だな。
シルフィはそう思った。もちろん、まだ腹は立てていたが。
「ブラストのことをあんな風に、忘れないでいてくれる奴がいるなんてな……」
そう呟いた師匠の瞳に、なにか光るものが見えたと思ったのは、気のせいだったかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!