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あいつにだけは、負けたくない。
そう思ったシルフィは、奥の手を出すことにした。指笛に音階を付け、風の馬が好む旋律を奏で始めたのだ。現役の風呼びのなかでは、シルフィだけができる技だった。ただこれは喉を痛めるのであまり頻繁にはできないし、長時間も無理だ。
効果はすぐに出た。どちらに行こうか迷っていた馬は、シルフィへと向きを変えた。
「ピーティー!」
名を叫ぶと、帆を操るロープを掴みながら了解の合図をしてきた。他の操帆手たちと連動しながら帆を張り始める。
横帆に縦帆、20枚以上ある帆をロープや手動で操り、風を最大限に利用できるように展げるのだ。熟練の技が必要だが、この点においては操帆長のピーティーに、シルフィは絶大な信頼を置いていた。
展開が安定したのを確認してから指笛で誘導し、シルフィは馬が帆を押す角度を微調整した。
船はみるみるうちに動き始めた。さっきまでは重い木と鉄の塊にしか思えなかったものが、瞬時に軽やかな存在へと変化する。
そうしているうちに、遠くに馬の群れが現れた。勢いよく進みながら、デヒティネに来るもの、レッドヘアに向かうもの、とふたつに別れる。一頭でもこちらに多く来るように、音を懸命に響かせる。
群れが近づくと、風を受けた帆が、さらにいっぱいに膨らんだ。そしてデヒティネはあっという間にスピードに乗った。
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