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まるでよく研がれた薄刃のナイフが上等の絹を裂くように、水を分けて進む舳先が、シルフィのいる場所からはよく見える。この瞬間は、何度経験してもわくわくする。
レッドヘアも動き始めた。だが今はデヒティネがわずかに先行している。逃げきれ。そう願ってシルフィは馬たちを指笛で煽った。さらにスピードが上がる。馬たちの駆ける音は、もはや地響きのようだ。
強い風に目を細めながら、シルフィは満足感でいっぱいになった。生まれ育った街、澱んだ空気と饐えた匂い、いつも湿っている石畳の街では、決して浴びることのなかった風だ。
舳先が水を切り裂く音と、船首像が上げる笑い声が、船を包む。
進む、進む。
今やシルフィの周りは、渦巻く風でいっぱいだ。マストにしがみついていないと落ちそうになる。しかしそうはせず、近くにあったロープを胴に巻きつけると、シルフィは両手を使って指笛を吹き続けた。
やがて進行方向に、陸地の影が見えてきた。
甲板で単眼鏡を覗いていた船長も気づき、水夫たちに声をかける。すぐに雄叫びのような威勢のいい声が上がり、シルフィのところまで聞こえてきた。ゴールは近い。
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