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シルフィはもう、誇らしい気持ちではち切れそうだ。
今や自分は船と一体だ。遠い異国の地まで出かけ、風に乗って帰って来る。家族のような乗組員たちと笑い合い、罵り合い、助け合う。
ほんの何年か前までは、想像すらしていなかった人生だ。あの頃はなんの目的もなく、自分の未来も、そのために努力や経験を重ねることも、想像すらできなかった。
進め、進め。
どこまでも進め。いくらでも進め。
世界中を駆け巡れ。
そして母港へと、恵みを持って帰れ。
そう心の中で唱えているのは、デヒティネに対してだけではなかった。
レッドヘアは、後方、もう間に合わない距離まで引き離されている。一番乗りはもう決まりだ。
港が見えてきた。岸壁には大勢の人々が詰めかけていた。歓声を上げ、興奮して帽子やスカーフをさかんに振っている。
そのなかには、シルフィの家族もいた。父と母、弟の3人が寄り添い手を握り合って、明るい笑みを浮かべこちらをじっと見つめている。
港に入るための舵が切られると、ピーティーたちもスピードを落とすために帆を畳み始めた。塞ぐもののなくなった風の馬たちは、マストと帆桁の間を抜け、港を通り過ぎ、そのまま進んで行く。
そうやって内陸まで駆けていけばいいと、シルフィは思った。
この生活をくれた師匠ゲイルのいる風車小屋まで、もしかしたら届くかもしれない。
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