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シルフィは港のすぐ近くにある、貧しい地区に生まれた。父親は港の荷役作業者。仕事にありつけるのは毎日とは限らず、さらに少しでもまとまった金が入るとすぐに飲んでしまうので、家に入れる額は少なかった。 しかたなく母親は近所からかけはぎやつぎ当ての仕事をもらってきて、一間しかない狭い家の中で一日中ずっと、他人の安物のドレスやジャケットに開いた穴を塞いでいた。 当然家の中におもちゃなどあったためしはなく、シルフィも弟も、外で遊ぶのが普通だった。 荒っぽい港湾労働者や酔っ払った水夫たちが行き交う路地で遊んでいれば、子供だからと言って優しい目で見てもらえるわけもない。いつの間にやら、怒鳴られれば殴られる前に逃げ出す、そんなすばしっこさばかりが発達した。 あの日も、そうだった。 丸めて縛ったボロ布をボール代わりに遊んでいたら、ニシンでいっぱいの、蓋のない箱を積んだ荷車が傍を通った。そこにボールもどきが、強く蹴った拍子に入ってしまった。 持ち主の魚卸の親父はカンカンだった。大事な商売道具に、得体の知れない物が入ったのだ。とっ捕まえようと伸ばした腕から逃げるため、遊び仲間たちは一斉に散り散りになって走り出した。
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