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シルフィはといえば、ちょうど停泊していた船の方向へと走った。周辺は、荷を下ろしたり食料や飲料水を積み込んだり、人も物も一番ごった返している場所だ。紛れ込むのにこんなに最適なところはない。 しかし相手も手慣れたもので、振り返ると人混みを縫って追いかけて来るのが見えた。荷車は一緒にいた息子に預けてあるのだろう。こんなにしつこく追ってくるなんて、虫の居所がかなり悪かったらしい。 追いつめられそうになったシルフィは、指笛を軽く吹いた。すると小さなつむじ風が起こる。船に積むのを待っていたリネン類の山から、何枚もの布地が吹き飛び、追跡者に絡みついた。 「なんだこれは!」 怒鳴りながらも身動きが取れなくなった隙に、脇をすり抜けようとしたシルフィの首根っこを、誰かがむんずと掴んだ。 追いかけて来たヤツが他にもいたか、とシルフィは観念した。 「わざとじゃなかったんだ!許してくれよう!」 情けない声を上げて嘆願してみたが、手の力が弱まる様子はなかった。まるで首を締められているようになりながら、大きな木箱の陰に引きずられていく。
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