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ドサリ、と地面に放り投げられてやっと、久しぶりの酸素にありついた。
見上げると逆光で相手がよく見えなかった。だが少なくとも棒は手にしていないようだった。素手で殴られるならちょっとはマシだ。シルフィは一番大事な腹を守るために、身体を丸めた。
「どこで教わった」
だが殴られる前に、質問が来た。なにを聞かれているのかわからなかったので、ただおし黙る。
「あの指笛だ」
「……なんのことだよ」
シルフィはしらばっくれた。すると相手が、急に拳を突き出した。殴られる。そう思い、ますます身体を縮こまらせた。
しかし目の前に突き出された手は、ゆっくりと開かれた。
そこには、拳大の小さな紙包み。相手の意図が掴めず、シルフィは目を瞬くしかない。
「答えたら、食べていいぞ」
そう言いながら開いてみせる。中身はカラフルな砂糖菓子だった。
「ホントに?」
「ああ。全部やってもいい」
その言葉に、シルフィは舌なめずりした。もうここ何ヶ月も、菓子なんて食べてない。袋ごと貰えるなら、家に持って帰って母親や弟にも分けられる。
「……真似をしたんだ」
「誰の」
「知らないじいさん。いつもあそこに座って、船を見てた」
港の隅に積まれた樽を指差す。
「ボケちまってて話も通じなかったけど、時々指笛を鳴らしてた。でも他の奴らは聞こえないって言うんだ。あたしにしか聞こえてないって。だからひとりで、真似してみた」
「……引退した風呼びだな」
「1ヶ月ぐらい前から、姿見なくなったけど」
「ふむ」
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