桜舞う傘やさん【シリーズ3作目】

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 丁寧なお母さんです。  「どうぞどうぞ!ただ傘を干しているだけなんで」  女の子は、黒いエナメルの靴をスキップさせながら、輝いている傘を眺めていました。傘の中に入ってみたり、傘を持ちあげて、太陽にかざしてみたり・・・。  「ここは傘やさんですか?」  お母さんが尋ねました。  「ええ、そうです。・・・今日は卒業式でしたか?素敵な桜が描かれた着物ですね。」    「ありがとうございます。4月から小学生で・・・。桜はまだ咲いていないんですが、娘に早く見せてやりたくて、桜柄の着物にしたんですよ・・・」  お母さんの横顔が、飛び跳ねている女の子を優しく包みます。  「入学式に、満開の桜だといいですね」  おばあさんは話しかけました。  「・・・そうだといいんですが・・。お腹の子がなかなか我儘で、私、実は3日後には、病院に入院しないといけないようで。入学式までに退院できたらいいのですが、入院してみないと何とも・・・・。」  ぽつりとお母さんは寂しそうにつぶやきます。
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