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其ノ二『追跡劇』
いつも穏やかで優しかった「義兄さん」。
純白の雪のようにひんやりとしていて、なのに優しくて不思議なぬくもりの存在。
広大な知識の世界を覇していた智性。
時代と場所を超越する"無限の世界"の案内人。
幼い私は義兄さんの全てに魅せられ、導かれてきた。
実の母親に捨てられ、父もいない独りぼっちで"可哀想"と呼ばれる子ども。
けれど、義兄さんだけは心から私の存在を見てくれた。
優しい義父と義母(義兄さんの実親)すら気付かなかった私の"想い"も。
心の奥深くに沈めたままだった私の"不安や恐怖"も。
唯一、全てを見透かしてくれたのは義兄さんだけ。
かけがえのない唯一人の存在だった――。
なのに、何故、つい最近までずっと忘れていたのか。
どうして、そんな残酷な真似ができたのか。
義兄さん、あなたはどこにいるの……?
濡れた骸の背中に赤く刻まれた、某哲学者の言葉が引き金となって、眠っていた"記憶"は呼び覚めた。
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