其ノ二『追跡劇』

1/11

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/367ページ

其ノ二『追跡劇』

  いつも穏やかで優しかった「義兄さん」。  純白の雪のようにひんやりとしていて、なのに優しくて不思議なぬくもりの存在。  広大な知識の世界を覇していた智性。  時代と場所を超越する"無限の世界"の案内人。  幼い私は義兄さんの全てに魅せられ、導かれてきた。  、父もいない独りぼっちで"可哀想"と呼ばれる子ども。  けれど、義兄さんだけは心から私の存在を見てくれた。  優しい義父と義母(義兄さんの実親)すら気付かなかった私の"想い"も。  心の奥深くに沈めたままだった私の"不安や恐怖"も。  唯一、全てを見透かしてくれたのは義兄さんだけ。  かけがえのない唯一人の存在だった――。  なのに、何故、つい最近までずっと忘れていたのか。  どうして、そんな残酷な真似ができたのか。  義兄さん、あなたはどこにいるの……?  濡れた骸の背中に赤く刻まれた、某哲学者の言葉が引き金となって、眠っていた"記憶"は呼び覚めた。  *
/367ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加