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「本当にすげぇな、櫻井先輩。男相手に一人で瞬殺だぜ」
一方、三人を観察していた後輩刑事官達は感服した様子で語り合う。
数秒で被疑者を制圧した蛍の戦いぶりは一枚の写真となって、彼らの記憶にも鮮烈に焼き付いていた。
「香坂刑事官は初めて見たんだっけ。櫻井先輩の格闘技……
“キックボクシング“よ」
旧時代に日昇国が独自で発展させた、足技を中心とする格闘技の一種。
源流はムエタイと呼ばれるタイ式のボクシング。
ただし、日昇国式キックボクシングでは、他の競技で禁止手とされる膝蹴りや首相撲、下段回し蹴り 等が認められている点がムエタイとの違いだ。
応用次第では相手の命すら奪う危険を伴う技だ。
しかし蛍は絶妙な力加減で行使し、相手への配慮と敬意は欠かさない。
蛍にとってキックボクシングは、あくまで犯罪の暴力から誰かを守るための一手段に過ぎない。
警察学校時代から、蛍は己の肉体を堅実に鍛えてきた。
徹底した強さをもって、蛍は犯罪関係者を必要に応じて制圧し、一般市民を守り続けてきた。
氷のように強靭で美しい脚力。冷凛とした雰囲気に、時折慈悲を香らせる柔らかさ。
故に蛍は、ルーナ警察署では「氷の戦女神」の異名で称えられている。
霜月班を率いる蛍の傍には、正義感に厚い誠実で勤勉な光・藤堂、野性の五感と直感を誇る果敢な弓弦・黒沢も付いている。
天賦の才を備えた刑事官二人、と彼らを支える刑事官、“最強の三人“がいれば難事件も百人力だ、と刑事部内でも一目置かれている。
「さて! 私達も早く先輩達に続かなきゃ!」
かくして、猟奇殺人事件の一人目の容疑者の身柄を無事に確保した蛍達は、ルーナ警察署へ帰還した。
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