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二人の出逢いは、刑事官になるために同期に警察学校へ入学した頃。
『誠に残念だが、君に刑事官は到底無理だ』
警察を含む国の「公務職」に就くには、五科目以上の基礎教養を学ぶこと。
資格を取る国家試験と採用試験、適性面接に合格して、ようやく働ける「旧時代の形式」はそのまま踏襲されている。
所謂、俺の"頭"ではどの試験も決して通らない。
当時の黒沢は、そんな手痛い挫折と絶望の淵に立たされた。
たとえ身体能力や直感力が飛び抜け優れていても、試験に受からなければ警察官にはなれない。
最低限の基礎教養から礼儀作法といった「知学」も周りを配慮する「協調性」がなければ、社会人としても成立しない、と。
ふざけんなよ、何だよそれ。
勉強できない"馬鹿な人間"は、夢を叶えることも、正義を貫く資格もねぇってことか。
しかし、俺は知っているんだ。
己の能力や権力をひけらかし、時に乱用しながら正義をのたまう。
そんな"てめぇら"は、守るべき市民の痛みと涙を啜ってのうのうと生きている。
馬鹿な俺は、警察としても人間としてもてめぇら以下だ、と俺を嘲るのか。
これが"理不尽"以外の何というのか。
周りは同期生も指導教員も皆、学力の低い黒沢を見下し、虫図の走る連中ばかりの中、唯一光は。
不可解な数字と文字が羅列する退屈な問題集を睨んでいた黒沢へ、自然に声をかけてきた光。
どうせこいつも、落ちこぼれの俺を馬鹿にしにきたのだろう。
当時の光は心技体・知学共に上位を争う典型的な優等生だった。
そんな光から初めて話しかけられた当初の黒沢は、内心軽蔑と警戒心が先立っていた。
しかし、邪険の眼差しで顔を上げた黒沢が「失せろ」、と追い払う台詞を吐き捨てる寸前。
『黒沢、お前みたいに本当に根性のある奴に、俺は憧れているんだ』
太陽さながら屈託ない微笑で当たり前のように零した光に、虚を衝かれた黒沢は口が止まった。
『身体実技の練習でお前を見た時からそう思った。俺には……お前みたいに鋭い直感力や臨機応変さはなくてな。それは、危険の伴うこの仕事に、最も必要な能力だ』
決して嫌味や皮肉ではなく、弱気と羨望の混じった眼差しと声色から本心だと分かった。
光は馬鹿にするどころか、むしろ足りない脳味噌を燃やしてがむしゃらに座学へ励む自分に、光は敬意すら寄せてきた。
光は黒沢の座学を支えただけではない。
時に黒沢の方が、光に足りない「咄嗟の素早い判断と行動」、それに必要な"身体の動き"を教えた。
犯罪者の心理を捉える"柔軟な思考"についても熱く語り合った。
『苦手な分野にも努力を怠らない者こそ、これからの警察には必要だ。そういう奴は、決して諦めずに人々を守る刑事官として最も相応しい、と俺は信じたい』
光だけは同じ夢を共に目指して学ぶ"仲間"として、黒沢と対等に接してきた。
『だから俺は何としても刑事官になりたい―― お前と一緒に』
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