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「お疲れ様です」
今日も無事に業務を終えて、帰路に立つ。
みんなと同じように駅に向かって歩いていく。
新規契約の日だったから慌ただしかったのもあるけれど、昼休みに岩本さんの結婚報告のおかげでゆっくりできなかった分、少しいつもより疲労がある。
結婚か。
この駅に向かう人の中でどれだけ既婚者がいるのだろうかと感傷的に物事を見てしまうのは、彼女のマウント効果だろう。
私も夢見なかったわけじゃない。昔は、結婚してみたいなと、そして、三十歳までには結婚して母になっているかもなんて人並みに想像したこともある。
私の生まれは静岡だ。
私の名前のとおり、富士山が見える町で生まれた。
名前をつけたのは父親。「富士山のようにでかい女になるんだぞ」と事あるごとに言われた。
そのせいか身長は一七五センチまで伸びた。
そして、この年まで命に関わる大病なく生きているのは、名前の力も若干作用しているのかもしれない。
それ以外は平均より下の人生だと思う。
中学までは地方の平凡な女の子だった。
実家は豆腐屋。山から生まれる綺麗な水で作った豆腐はわりと好評だった。
私は一人っ子だ。母は私を産んですぐに亡くなった。
両親はなかなか子供が授からなかった。
母は心臓が弱いのに私を無理に産んだ結果だった。
だから、母親の記憶はない。顔は写真で。とても優しそうな人だという印象しかない。
父は利発でよくしゃべる。それこそ母親分も補うくらい。
私と引き換えに母が死んでしまったようなものなのに、父は一度も私を責めたことがない。
いつも笑っていて、「富士子、何かあったらすぐに父ちゃんに言えよ!」と私の味方でいてくれた。
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