先生に会いたくて……

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友達との別れを惜しみ、私が帰宅したのは、夕方5時を回っていた。 家族に祝われながら、食事をし、8時過ぎに自分の部屋へと行く。 卒業直後で賑わっていた友達とのグループLINEに返信を終えると、私は、先生からもらった問題集を取り出した。 宿題って、これ、一体何ページあるのよ! 春休みの間に終わるのか不安になるくらい分厚い問題集。 私はペラペラと最後のページまでめくってみる。 うそっ! 334ページ!? 最後のページ数を確認して、驚いた私は、一瞬、呆然とする。 が、その時、最後の問題の下に、手書きのメモがあることに気づいた。 LINE ID:KosukeU××××0505 090×××××××× これ…… 先生の誕生日が子供の日なのは知ってる。 私は、そばに置いてあった携帯を手に取ると、恐る恐るその電話番号に掛けてみる。 rrrr 呼び出し音が2回ほどなり、プッと通話が繋がった。 「はい」 低い男性の声。 先生だ! 「あの、先生?」 私は、そう言うのが精一杯だった。 掛けてみたものの、何を話していいか、分からない。 「ん? 綾乃か? なんだ、もう気づいたのか。問題を最後までやったら気付くようにしといたのに」 先生は、残念そうな口ぶりなのに、声はどこか嬉しそうに聞こえる。 「だって、あんまり分厚いから、何ページあるのか気になって……」 私は言い訳をする。 「まぁ、いいけど。でも、電話で質問は禁止な。質問はちゃんと学校へ来い」 「ええ!? なんで? 別に電話で聞いてもいいじゃない」 ちょっと落胆した私は、口を尖らせて抗議する。 「……会いたいから」 えっ? ボソッと返って来た一言が信じられなくて、私は言葉を失った。 「今、なんて……」 信じられない私は、先生に聞き返す。 「俺が会いたいから、分からないところはちゃんと質問に来い。31日までは、学校の外では会えないからな」 それって…… 「数学以外のことなら、いくら電話して来てもいいけどな」 うそ…… 「あ、でも、他のやつにはまだ内緒な」 耳元で聞こえる先生の声は、私の胸の奥に「ざわざわ」と「そわそわ」の種を蒔いているように感じる。 「31日まで?」 私が聞き返すと、先生は電話の向こうでくくくっと笑った。 「そ、31日まで」 それから、1時間、私は先生と取り留めのない話を続けた。 そして、先生に、 「ほら、そろそろ問題をやらないと、明日質問に来れないだろ? 待ってるから、頑張れよ」 と言われて、もっと話したかったけど、渋々電話を切る。 そして、私は素直にもらった問題集を解き始めた。 他の数学の先生方はみんな職員室で仕事をしているのに、なぜ、上田先生だけが数学準備室を使うのか。 それは、他の先生の目を気にすることなく私と会いたかったからだと打ち明けられたのは、それから1年後のことだった。 ─── Fin. ─── レビュー・感想 ページコメント 楽しみにしてます。 お気軽に一言呟いてくださいね。
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