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卒業式も、その後の最後の学活も終わると、私は、数学準備室に急ぐ。
先生が帰ってしまったら、もう会えない。
気持ちが焦る私は、挨拶もせずガラッと準備室のドアを開ける。
すると、1人きりで座ってる先生と目が合った。
「先生!」
「綾乃」
私は、ほんの2mほどの距離を駆け寄る。
「先生、お世話になりました!」
私は手にしていた紙袋を差し出す。
これは、先生に感謝の気持ちを伝えたくて、買ってきたプレゼント。
ほんとはメッセージカードにLINE IDとか電話番号とか書きたかったけど、そんなことをしてめんどくさいやつだと思われたり、嫌われたりするのが怖くて、結局、普通の感謝の言葉しか書けなかった。
それでも、私は精一杯の思いを込めて、先生にプレゼントを手渡す。
「ありがとう。開けていいか?」
嬉しそうに目を細めた先生が尋ねる。
私がこくりとうなずくと、先生は紙袋からプレゼントを取り出し、その上に付けられたメッセージカードを手に取る。
『上田先生、3年間ありがとうございました!
数学もバレーも先生と一緒だと
とっても楽しかったよ♡
これからもいい先生でいてね!
私、先生のこと、一生忘れないよ!
だから、先生も私のこと忘れないでね♡
川島 綾乃』
それ、目の前で読まないで欲しい。
無難なことしか書いてないけど、それでもやっぱり手紙を目の前で読まれるのは恥ずかしい。
「なんだ、ラブレターかと思ったのに、残念」
先生は、そんな軽口を叩いて笑って見せる。
そうして、そのカードを机の上に置くと、再び、ラッピングをほどいていく。
中から現れたのは、「上田 浩輔」と先生の名前を刻印したボールペン。
高校生のお小遣いで買える程度の物だけど、インクの芯を替えられるから、ずっと使ってもらえる。
それを箱から取り出し、手に取った先生は、
「ありがとう」
と言って、そのボールペンを胸ポケットに挿した。
私は卒業しても、あのボールペンはずっと先生の胸元にいられる。
それが嬉しかった。
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