先生に会いたくて……

3/5
83人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
卒業式も、その後の最後の学活も終わると、私は、数学準備室に急ぐ。 先生が帰ってしまったら、もう会えない。 気持ちが焦る私は、挨拶もせずガラッと準備室のドアを開ける。 すると、1人きりで座ってる先生と目が合った。 「先生!」 「綾乃(あやの)」 私は、ほんの2mほどの距離を駆け寄る。 「先生、お世話になりました!」 私は手にしていた紙袋を差し出す。 これは、先生に感謝の気持ちを伝えたくて、買ってきたプレゼント。 ほんとはメッセージカードにLINE IDとか電話番号とか書きたかったけど、そんなことをしてめんどくさいやつだと思われたり、嫌われたりするのが怖くて、結局、普通の感謝の言葉しか書けなかった。 それでも、私は精一杯の思いを込めて、先生にプレゼントを手渡す。 「ありがとう。開けていいか?」 嬉しそうに目を細めた先生が尋ねる。 私がこくりとうなずくと、先生は紙袋からプレゼントを取り出し、その上に付けられたメッセージカードを手に取る。 『上田先生、3年間ありがとうございました!  数学もバレーも先生と一緒だと  とっても楽しかったよ♡  これからもいい先生でいてね!  私、先生のこと、一生忘れないよ!  だから、先生も私のこと忘れないでね♡                川島 綾乃』 それ、目の前で読まないで欲しい。 無難なことしか書いてないけど、それでもやっぱり手紙を目の前で読まれるのは恥ずかしい。 「なんだ、ラブレターかと思ったのに、残念」 先生は、そんな軽口を叩いて笑って見せる。 そうして、そのカードを机の上に置くと、再び、ラッピングをほどいていく。 中から現れたのは、「上田 浩輔」と先生の名前を刻印したボールペン。 高校生のお小遣いで買える程度の物だけど、インクの芯を替えられるから、ずっと使ってもらえる。 それを箱から取り出し、手に取った先生は、 「ありがとう」 と言って、そのボールペンを胸ポケットに挿した。 私は卒業しても、あのボールペンはずっと先生の胸元にいられる。 それが嬉しかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!