12人が本棚に入れています
本棚に追加
最寄り駅から学校へと続く通い慣れた道。拓海はいつもより少しだけ早足で通学路を歩く。週の始まりは気が重い。もたもたしていたらいつもの電車を逃してしまった。のんびり歩いている中年の女性を追い抜きながら、ホームルームに間に合うだろうかと時計を見る。
正門に続く道を曲がるとすぐ、いつもと違う様子に気づいた。遠目にも分かる異様な雰囲気。正門の周りに、カメラを持った人が集まっている。教師たちが困惑したように必死の対応をしているのが見える。
「おはよう、タク。やっぱりこうなるよな」
隣のクラスの畑山が感心したように言う。去年同じクラスで、畑山いわく親友らしいが、拓海は親友になった覚えなどない。今はただの隣のクラスの同級生。そしてここにいるということは、彼も遅刻寸前であることは間違いない。
「何だろう、あれ」
「ニュース見てないのか?」
「ニュース?」
「お前、何も知らねーのかよ。田中が金曜日から行方不明なんだってよ。タク、同じクラスだろ」
「田中? 金曜日なら、俺話したけど」
「本当か。いつだよ」
「放課後」
「へ~え」
畑山が興味津々なのを隠しきれない目で見てくる。
「何話したんだよ」
「遅刻するから急ぐよ」
ごまかして足を踏み出したと同時にチャイムが鳴った。もうどんなに急いでも間に合いそうにない。
「田中のこと、何か分かったら教えろよ。じゃ、オレ急ぐわ。あ、マスコミの奴らと目合わせんなよ!」
畑山は拓海の返事も待たず走って行ってしまった。おもわずため息が出る。
「あ、東高校の生徒さんですよね。田中くんについて何か教えてもらえませんか」
「田中くんはどういう生徒さんでしたか」
このマスコミ勢がいなかったら遅刻しなかっただろうかと考えながら、別に畑山に言われたからというわけではないが、できるだけ目を合わせないようにしてマスコミの群れをすり抜ける。
最初のコメントを投稿しよう!