第12話 切望

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第12話 切望

「あと諜報、破壊、(はかりごと)、暗殺活動などを得意としている部族はいませんか?」 「な、なにをするのでしょうか?」 「はい、まずは他の領の情報収集などが目的です」 「それを請け負う者でしょうか?」 「者ではなく一部族くらいの人数が欲しいのです。そして欲しいのは武力ではないので、腕は二の次で良いのですが」 「そ、それは。ですがとてつもなく、高い金額になるのではないでしょうか?」 「お幾らくらいでしょうか?」 「さあ、わかりません。そのような者が居るとは聞いたことがありますが、関わることがありませんでしたから」 「そうですか。ところで伺いますが、私はお給料が頂けるのでしょうか?」 「えっ、え!!」 「まさかダニロ公爵は、私が無給で働くとお思いだったのでしょうか?」 「ですが、こういうことは大概、理想に燃えて無欲でことを成すのでは…」 「なにを言っているのですか?そんなことを言うのは小説の中の主人公くらいな者です。物語なら働かなくてもなぜが食事が出来て、良い仲間に囲まれて毎日を過ごします。ですが現実は何をするにもお金なのです、お金が人を動かします。私はそれほど必要に思いませんが、これから私に着いてくる人達が居ればお金が無いと着いてきてはくれません!!」 「わ。わかりましたビッチェ様。月500万円出しましょう」 「500万円?!」  ビッチェは首を傾げてみせる。 「す、すみませんでした。ビッチェ様程の方をたったの500万円などと。では600万円でどうでしょう?」 「600万?!」  なおも首を傾げる。  するとダレナン元公爵も話に加わってくる。 「そ、それなら私も300万円出そう。いかがでしょうかビッチェ様?」 「わかりました。それで手を打ちましょう!!」 「「 ありがとうございます!! 」」  ビッチェが首を傾げたのは金額が不満なのではなく、『円』というお金の単価が分からなかったからだ。  この国の労働賃金は農民で月15万、商人で20万、公爵の下の侯爵で月500万くらいが相場だ。  月900万円なら公爵以上の待遇だ。  それだけこのダラクア領が、豊かな証だろう。 「ビッチェ様、思い当たる者がおります」 「なんの話でしょうかダニロ公爵?」 「諜報、破壊、(はかりごと)、暗殺活動などを得意としている部族ですよ」 「どこにいるのでしょうか?」 「多分、私を襲った者たちがそうでしょう」 「まあ、そうなの丁度良かった」 「丁度良かったではありません!!私は殺されそうになったのです」 「まあいいいから。捕虜の2人に会いたいわ、どこにいるかしら?」 「わかりました、ご案内致します。どうなっても知りませんよ」  そう言われダニロ公爵親子と執事のセバスクンと、捕虜の居る騎士舎に向かった。  宿舎の留置場に向かうと入口に50代の筋肉質の男が居た。 「これはダニロ公爵様」 「ガナン、捕虜のようすはどうだ?」 「はい、いたって落ち着いております」 「そうか、合わせてほしい」 「かしこまりました。さあ、こちらへどうぞ」 「ダリーナさん、見て見なさい」 「はいナンマお母様」  私達はダニロが帰宅し、顔を見た後に部屋を出た。  そして居間の窓から外を見ていると、息子のダニロ、夫のダレナンと執事のセバスクンが歩いているのが見えた。  そしてビッチェと言う、息子を助けたと言う女性が後ろを歩いて行く。 「ダリーナさん、あなたはあのビッチェ様をどう見ますか?」 「そうですね、もう助からないと思った主人の傷を、回復魔法であっと言う間に塞ぎました。そして剣術や攻撃魔法にも長けていると騎士から聞いております」 「そんな人がなぜ、この国に…」  そんなことが出来る人なら、国を挙げての大騒ぎになる。  そして滞在している我が家は一躍、脚光を浴びるだろう。  屋敷の敷地内にある広い練習場を通り抜け、彼らは騎士舎の方角へ向かっている。   「ビッチェ様はちりめん問屋の娘で、縮緬(ちりめん)の布地を買い付ける旅をしていると伺いました」 「縮緬(ちりめん)ねえ。そんな布地、聞いたことある?」 「いいえ、ございません。ですがなにが事情がおありかと思いまして、そこには触れておりません」 「それが良いわ。それにあの変わった挨拶、とても堂に入っていた。それになによりもあの自信に満ちた態度。私の何倍も生きているような老猾(ろうかつ)さと、落ち着きを持っているようにも見受けられるわ」 「そうですね、ビッチェ様は何か見た目以上の年齢の方に見えます」 「それにビッチェ・ディ・サバイア様と言ったわね。この国にサバイア家は無いし、ディと言う先祖からの家名らしきものも身分の高さを表しているわ」 「えぇ、本当に不思議な方です」 「言葉使いからも高度な、英才教育を受けていそうだわ」 「ビッチェ様は我が夫、ダニロをこの国一の王にすると約束して頂きました」 「まあ、そんな話を…」 「でもなんだか夫はとても楽しそうに、子供の様に目を輝かせておりましたわ」 「そんな夢のような話を本気にして」 「ビッチェ様は争いの無い世界を作りたいと言っていました」 「それが本当ならどんなにいいことか。安心して暮らせる国作りができたら」 「きっと、そんな日がきます。ビッチェ様なら、聖女様なら実現できる気がします」
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