第6話 決め台詞

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第6話 決め台詞

 馬車の外に出ると護衛の人達は、賊の後始末をしているようだった。  あぁ、そうだ。 「ハビエル様」  私は公爵側付きの騎士と思われるハビエル様に声を掛けた。 「なんでしょうか、戦士様」 「ふっ、戦士様はないですよ。ビッチェと呼んでください」 「ではビッチェ様」 「怪我をした皆様にこれをどうぞ」  そう言って私はストレージからポーションを3本出す。 「これは?」  ハビエル様は不思議そうな顔をして、ポーションの入れ物を受け取る。 「回復薬(ポーション)ですよ、ご存じないのですか?」 「回復薬ですか?!」 「死ぬような怪我や傷は無理ですが、それ以外ならかければ治すことができます」 「そ、そんな薬があるのでしょうか?」 「ハビエル様の街では普及していないのでしょうか?」  ポーションは確かに高級な品物だけど。  しかし騎士団なら、使用していてもおかしくないはずだ。  そんな辺境にある街なのかしら? 「すみません。存じ上げません」 「そうですか、ではぜひ使ってみてくださいね」  そう言って私はごまかした。 「はい、ありがとうございます」  そう言ってハビエル様は、怪我をしている人達のところへ向かった。  私もその後に着いて行く。  道の横に人が9人、座り込んでいる。  よく見ると腕や足、首を怪我しているようだ。  ハビエル様達が装備している、ライトアーマーは比較的良くできている。  要所要所を隠し動きやすそうだ。  騎士の戦いは防具に守られていない個所を、狙うところから始まる。  その為、お互いの装備が良いと中々決着がつかないものだ。  今回の護衛側の死者は5名。  弓矢が刺さり、動けなくなったところを切られたようだ。  そして捕虜として生かされた賊が2人。  司令官と補佐官のような2人が残され、後は殺されてしまったようだ。  さすがに20人以上捕虜にしては、街まで連行してはいけない。   「ハビエル近衛隊長、どうされたのですか?」  怪我をした騎士が、近づいてきたハビエル様に挨拶をする。 「あ、あぁ、実は…」  どうやらハビエル様はポーションの効果を疑っているようだ。  それなら私が…。 「怪我はいかがですか?今、治してさしあげますから」 『なに、そのしおらしい、変な喋り方は?』 「静かにしてよ、ミリアちゃん」 「な、なんでしょうか?」 「いいえ、何でもありませんわ騎士様」  気が付くと私の後ろには、ダニロ公爵親子と執事のセバスクンが居た。 「何をされるのですかな、ビッチェ様?」 「はい、ダニロ公爵。ポーションで怪我を治して差し上げようと思いまして…」 「ポーションで怪我を?」  やはりダニロ公爵もポーションを知らないようだ。  いったいどれほどのド田舎なんだろう?  では戦いで怪我をしたらポーション無しで、どうやって治すのかしら? 「まあ、見ていてください。少し濡れて冷たいですよ」  私はそう言うと、腕を怪我している騎士の腕にポーションを垂らした。 「うっ」  すると一瞬間が開き、光輝いた!!  光が収まると怪我は噓のように治っていく。  まるで逆再生をゆっくり見ているような光景だ。 「な、治った!!俺の腕が…。ありがとうございます、聖女様~!!」  腕の治った騎士が歓喜して騒ぐ。  それを見ていた騎士や捕虜として生かされた、賊の2人が驚いた顔をしている。 「さあ、試してみてください」  そう私はハビエル様に言った。 「分かりました、やってみます」  ハビエル様は次々に怪我人にポーションをかけていく。  するとかけられた怪我人は、光り輝き癒されて行く。 「骨折している場合は、飲ませてあげてください」 「わかりました」  私は足りなくなりそうなので、追加のポーションをハビエル様に渡す。 「ありがとうございます」  ハビエル様は何度も、お礼を言う。  そして一通りの治療が終わった。  その後、ハビエル様に治した騎士から苦情が来た。  最初の騎士は私が治し、後はハビエル様が治したからだ。  どうせ治してもらうなら聖女様が良かった!!と口々に言われていた。  遂に私にも、モテ期が…。  数百年待った甲斐があったね?と、いつもならミリアちゃんが、突っ込んでくるはずなのに大人しい。  どうしたのだろう?  左肩を見ると私に肩の上で寝て居る。  転移して疲れているのかな?  しばらく、そっとしておこう。  見ると賊の2人も怪我をしている。  私は彼らの側に近付いた。 「あ、危ないですよ聖女様!!」  騎士の1人に言われる。  縛られている人に何ができるの?  私はそのまま賊の2人の側に行った。 「なんのようだ?!」  噛みつくような目をして私を見る。  指揮官らしい人は、よほど善戦したのかあちこち、傷だらけだった。  私は左手を彼に翳し厳かに唱える。 〈〈〈〈〈 Healing(ヒーリング) 〉〉〉〉〉 「な、なんだと?!」  私の左手が輝き優しい光が彼の傷を包む。  そして今度は、もう1人の捕虜を治す。 〈〈〈〈〈 Healing(ヒーリング) 〉〉〉〉〉  私の左手は更に輝きを増す!!  そして輝きか収まった時、2人の怪我は跡形も無く治っていた。  ポーションを渡して私が指導するなら、最初から魔法で治せばよかったな。 「こ、これは回復魔法なのか?な、なぜ俺達を治した?」  指揮官らしい人が私に聞く。 「騎士を治して、あなた達を治さないのは不平等でしょう?」 「だが俺達は敵だ!!」 「正確には騎士とあなた達はそうよね。でも私は通りすがりだから敵ではないわ」 「な、」 「私はただの通りすがりだから。それにね、何をやっても人には生きる権利があるのよ。分かる?人を憎んで罪を許さず、てことわざもあるでしょう?」  そう言うと私は、にこやかに微笑んだ。  それを聞いていた騎士達は震えあがった!! 『人を憎んで罪を許さず』、それは絶対、許さないと言う事だ。  ポーションでは治さず魔法を使い、いつでも治せることを見せる。  そして癒した後からあの笑顔でいたぶると言う事か…?!  治療して切りつける。  そしてまた治療をして、切りつける。  それを何度も繰り返されたら、心が壊れてしまう。  なんと恐ろしい拷問だ…。  良かった、聖女様はどうやら我々の味方の様だ。  聖女様に逆らってはいけないことを、この日彼らは学んだ。
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