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第7話 浄化
「しかしこの血で汚れた馬車をなんとかせねば」
ダニロ公爵が座っていた向かい合わせの席は、血でべったりと汚れている。
どれだけ流れたのか?
良く生き延びられたものだ。
それだけ妖巨人の血液は生命力が強いと言うことか。
でもこれでは馬車は使えない。
3台ある内の一番前の馬車は侍女が6人乗っている。
そして一番後ろの馬車は主に衣装や荷物を乗せる馬車だ。
侯爵達が他の馬車に乗り換えると、その馬車に乗っている人達は歩きになり帰宅の速度が遅くなってしまう。
「では、後の馬車の荷物が無くなれば乗れますよね?」
「あぁ、そうだが。さすがに荷物を捨てていくことは出来ない」
そうダニロ公爵が渋る。
「そうではなく、私がお持ちしましょう」
「ビッチェ様がお持ちいただけると?」
「はい、お任せください。まずは降ろしやすい様に、荷台の紐をほどいてください」
私がそう言うとダニロ公爵は腑に落ちない顔をした。
しかし従者に指示を出し荷物をほどいてくれた。
「では、行きますよ!それ!!」
私はストレージで、馬車の荷物を全部収納した。
どうだ!!
周りを見渡すと顎が外れるかと思うくらいに、みんな口を開けて驚いている。
しまった、マジック・バッグでごまかそうと思ったけど。
ポーションも知らない田舎の人なら、マジック・バッグすら知らないんだ。
「ビッチェ様、今のは…」
ダニロ公爵が思った通り聞いてくる。
「これは王都で有名なマジック・バッグです。空間に穴を開け、倉庫代わりに利用できる魔法です」
私はダミーで首から下げているポーチを叩いて見せた。
「空間に穴を開ける魔法ですか、初めて聞きました。す、凄いですね…」
「えぇ、先祖代々、受け継がれている物です」
「そうでしょうね、そんな貴重な物なら…」
周りを見渡すとみんな惚けた顔をしている。
あ、駄目だ。
田舎を馬鹿にするわけではないけど、常識から教えるのは無理だわ。
ここはスルーで…。
「これで馬車が1台空きましたね」
「そ、そうですね。この馬車に侍女を乗せ、我々は前の馬車に移りましょうか」
ダニロ公爵は、なぜかオドオドしている。
そして道の奥側を見ると騎士達が、亡くなった賊の遺体から装備を外している。
「あれは何をしているのでしょうか?」
「装備を剥いでいます。遺体を運ぶには無理なので、装備を剥ぎ街で売るのです」
ハビエル近衛騎士団長が説明してくれる。
「そうですか」
「時間は掛かりますが後は、森の動物が処理をしてくれるでしょう」
後の処理は魔物に任せる、ということね。
でも時間が掛かる?魔物も少ない土地なのかしら?
でも一つ間違えばアンデッドになりかねないわ。
まして遺体は20人以上あるんだから。
「私が供養いたしましょう」
「ビッチェ様がですか?」
「えぇ、これでも私は教会に身を置いたこともありますから」
「そうですか、ではお願い致します」
遺体をまず森の左側に集めてもらった。
丁度、私の魔法で更地になっていたので、計算通りだわ…。
そして遺体を横に並べてもらった。
土魔法で穴を掘ってと…。
私は屈み土に両手を置く。
そして魔力を込める!!
ズンッ!!
あれ?おかしい。
1mくらい土が下がるようにイメージしたのに30cmくらいだわ。
私もミリアちゃんみたいに、転移の影響が出ているのかしら?
ではもう1度!!
ズンッ!!
そしてもう1回!!
ズンッ!!
やっと1mくらいになっわ。
「みなさん、遺体を横に並べてください」
そう私は言い騎士の人に並べてもらった。
そしてまた土魔法で土をかぶせる。
さすがに森の中で火葬はできないから。
エィッ!!
エィッ!!
エィッ!!
おかしい。
魔法がイメージ通りに行かない。
そして魔力の回復が遅い。
どうしたのかしら?
ミリアちゃんを見ると私のポーチの中に入って寝ている。
本当にどうしたのかしら?
あと少しだわ。
頑張らないと。
『主よ、永遠の安息をかれらに与え、絶えざる光をかれらの上に照らしたまえ。
身元に召された人々に永遠の安らぎを与え、あなたの光の中で憩わせてください』
〈〈〈〈〈 Vanish!! 〉〉〉〉〉
私は浄化の魔法を唱える。
すると20人が並んで埋められた場所から、光り輝く何かが天に昇っていいく。
「きれい…」
「奇麗だわ…」
ダリーナ様、ダリダ様。
そして見上げている人達がそれぞれ呟く。
「ビッチェ様、何をされたのですか?」
ダリダ様が聞いてくる。
「悪しきものに魂が引かれない様に、浄化して天に召されれていったのです」
「えっ?!天国に召されたということでしょうか?」
「えぇ、そうです」
「人が、天国に行くことを選べるなんて。奇跡です、ビッチェ様は本当に聖女…」
視界が突然、暗くなる。
えっ、どうしたのかしら?
眩暈が…。
…チェ様、……ェ様、…………、しっかり…て。
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