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第8話 独り言
誰かの温かい温もりを感じる。
そして私は横になり誰かに、頭を撫でられている。
「お母さま、私は頑張りました…でも、もう疲れました…帰りたい…」
私は知らずに泣いていた。
ミリアちゃんと旅に出てからこの数百年。
誰かの温もりに触れたことは無かった…。
「頑張って来たのですね、ビッチェ様」
誰かの声が聞こえた。
私は目を開け身を起こす。
するとダリーナ様の顔がそこにあった。
どうやら私は馬車に乗せられ、ダリーナ様の膝枕で寝て居たらしい。
「す、すみませんダリーナ様!」
「いいのですよ。それに具合は大丈夫でしょうか?」
「私はいったい?!」
「ビッチェ様は死者を弔った後、突然倒れられたのです」
覚えている。
突然、目の前が暗くなって…。
馬車の前の席にはダニロ公爵、ダリダ様、執事のセバスクンが座り、こちらを見ている。
『魔力枯渇よ』
「ミリアちゃん?!」
「どうかされましたか、ビッチェ様」
「いえ、なんでもありません」
ミリアちゃんが私の左肩に座り話しだす。
『そのままで良いから聞いて。この世界に転移してから、どうも調子が変だったの。そして魔素が極端に薄いことに気づいたの。ビッチェもそうでしょう?思った通りの効果が出ないとか無かった?』
私は微かに頷く。
『私は半分、妖精だから魔素がないと生きていけないのよ。そして魔素の極端に少ないこの世界では魔力の消費が激しく、前の世界の様な大型の魔法はもう放てない』
そして間を開けさらに語る。
『あなたも同じよ。魔素が空気中にあれば消費しながら吸収していける。でも無ければ自分の魔力のみを使うしかない。魔力は段々と回復はしていくわ。でも今までのような速さではなく、ゆっくりとしか回復しないはずよ』
そうか、だから思った通りの効果が出ず、その通りにしようとすると魔力を使いとても疲れたのね。
『だから今後は私の魔法は当てにしないでね』
えっ、私は驚いた顔をしてミリアちゃんを見た。
『仕方ないでしょう、魔力が無ければ魔法は使えないし、魔素がないと生きていけないから魔力は温存しないと。それにこの世界で唯一、魔素が多いのはビッチェだから、ビッチェの魔力をもらって私は生きて行くしかないわ』
『言い方を代えると大型魔法を今後使う時は、ビッチェの魔力をもらうから。あなたの魔力値以上の魔法は使えないから』
そう言うことか。
魔法が今まで通りに使えなくなると不安になる。
今までどれほど、魔法に頼っていたのかが分かるわ。
私なんて魔法が使えなければ、ただの可憐な少女だもの。
『でもビッチェなら大丈夫、魔法が使えなくても脳筋だから何とかなるわね!』
な、なによ、もう~!!
馬車の中で他の人の目があるから、声に出せないのが悔しいわ。
『ここにいる人達に聞いてみて、この世界に魔法があるのかを。そしてあればいいけど無ければ、あなたはこれから行動を慎まないと身が危険になるわ』
そうだわ。
前居た国でも強力な魔法が使える人は、その力を欲しがる人達の的になる。
まして『無い』世界なら、それを使える私は…。
「みなさんに伺いたいことがございます」
「なんでしょうか、ビッチェ様」
向かいに座るダニロ公爵が答える。
私はよく考え質問をする。
「この国で魔法使いはいますか?」
するとダニロ公爵は、驚いたような顔をした。
「えぇ、おります。ですがビッチェ様が思われるような、魔法使いはおりません」
「どう言うことでしょうか?」
「この国では、いいえ私の知る限り、この世界では千年前に魔法は廃れました」
「廃れた?」
「はい、徐々に使えなくなったそうで、今では使える者はほんの僅かです」
「使える人はいるのですね?!」
「ビッチェ様の基準でいけば、おりません」
「いないのですか?」
「騎士に聞いた話では雷の魔法を使い、森を吹き飛ばし回復魔法も使える。そんな人はおりません」
「では、居ると言うのは…」
「指の先に僅かな炎を出したり、指の先でろうそくの火を消すくらいの風を吹かせたり。その程度の人しかおりません」
「それが何の役に立つと…」
「おっしゃる通りです。ですが生活面でも魔法に依存していた当時の人々は、生活が大きく後退致しました。魔法が廃れることで今まで出来ていたことが、出来なくなったのです」
私はただ話を聞いている。
「魔法は戦闘だけではなく、畑仕事や森の伐採などにも役立っていました。それが出来なくなり人力で畑を耕し、水路を掘り川を引かなければならなくなったのです」
う~ん。それが普通だと思うけど。
それだけ魔法を使える人が多く、一般的だったと言うこと。
逆にこの世界は魔法に依存し続け、使えなくなると文化が後退したというわけね。
「ですから国は魔法を使える人達を集め、地位を与え保護しております」
「そしてその人達を掛け合わせ、魔法使いを再び作ろうとしているのね」
「その通りです」
「魔法使いを作ってどうしたいのかしら?」
「そうですね、国としては他国への牽制でしょうか。魔法1発で一個小隊が吹き飛ぶ。それが何人もいれば牽制となり、領土拡大も容易いかと」
「ではこの国は他国と争っているの?」
「えぇ、国同士もそうですが実は、内部の領どうしでも争い合っております」
「この国の王様は何も言わないのかしら?」
「はい、この国を建国した何世代も前の王は統率力がありました。しかし世代を重ねるにつれそれもなくなり、あるのは血縁と言うだけになってしまいました」
「権威があるだけで、国を司るだけの能力はないのね」
「その通りです。政は全て側近に任せていると聞きます」
「そしてそれを狙っている者が居ると」
「王の側近は自分達にとって優位な政治を行い、各領主は不満を募らせています」
「そしてそれを諫める人もいないのね」
「以前はおりましたが今はみな、罪をきせられ幽閉されたり改易処分となりました」
「では、その取り巻き思うままなのね」
「そうです。そしてこの機会に各領主も国主になろうと画策をしております」
「わがレイトン国は王都を中心に8州あり、それぞれ公爵や侯爵に任され領を運営しております。そして中には隣の領土同士で婚姻関係を結び、力を付けている者もおります」
「その中で秀でた人はいるの?」
「いいえ、私を含めてそれなりの者しかおりません。どれも親の地位を引き継いだ者ばかりですから」
「裏を返せばこの国を統一できそうな人は居ないと言うことね」
「そうです。攻められれば婚姻関係があれば力を合わせますが、攻めようと思ったら言い訳をして力は貸しません。なぜなら自分が相手の下に付くのが嫌だからです」
「カリスマ性のある指導者が居ないなら、いつまで経ってもにらみ合うだけね。他の国はどうなのかしら?」
「はい、南東にマヌエラ国、南西にヒルデガルト国、そして北に我が国を包み込むほど面積がある大国ビョルリン国があります。そして虎視眈々と侵略の機会を狙っているはずです。今いるダラクア領は、その一番東の領になります」
「では誰かが早く統一して体制を固めないと、他国に飲み込まれてしまうのでは?」
「いずれ、そうなるかもしえません」
「あなた、そんなことを言っては…」
「いいのだダリーナ。聖女様には嘘は付けない」
「私は聖女ではありませんよ」
「聖女と決めるのはビッチェ様ではなく周りの者です。神の恩寵を受けて奇跡を起こし、弱者に対して大きく貢献する。まさしくビッチェ様です」
「そうそれで、あなた達は私をどうしたいのかしら?!」
「それは…」
私は考える。
私の秘密を知られた以上、出方によっては消えてもらうしかないわね。
後どのくらい魔力があるかしら?
爆裂魔法2発分くらい?
まず馬車の前後にぶち込み、生き残りは剣で切り倒す。
そして口を封じ装備をはぎ取り街でお金に換える。
これで、どうかしら?
「あの~ビッチェ様。独り言が口に出てますけど…」
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