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第9話 群雄立つ
「あの~ビッチェ様。独り言が口に出てますけど…」
し、しまった。
長く一人でいたから独り言が多くなって、無意識に出てしまったわ。
「お母さま、ビッチェ様が怖い!!」
娘のダリダ様が怖がっている。
「大丈夫よダリダ。ビッチェ様は少し疲れているだけなの」
「そうなの?」
「そうよ、でなければ私達をお父様を助けた意味がないわ」
それは、そうよね。
せっかく魔力を使って助けたのに、始末するなら助けた意味がないわ。
どうしたのかしら私…。
一人の時間が長いと、だんだんと心が壊れていくのね…。
『元からだと思うけど…』
そうミリアちゃんは言いながら、眠そうに私のポーチの中に消えて行った。
私はそこを普通に流す…。
魔力が足りなくて、動けないのね。
可哀そうに私の魔力が回復すれば、と。
「では話を纏めるわね。王族の権威は無くなり、国を束ね他国に対して対抗できるだけの覇者が居ない。そして国は内部で覇権を争っている。それでいいかしら?ダニロ公爵」
「その通りですビッチェ様」
「他の領主や他国の動きはどうなの?」
「聞いたところでは隣接している他国から誘われ、レイトン国の他の領を少しでも切り取れば好待遇で迎えてくれると、私のところを含め誘いが来ております」
「国内で争わせ弱ったところを攻めてくる、そんなところね」
「その通りです」
「人口や兵士の数は?」
「どの領も人口は、はっきりとは分かりません。そして兵士は3,000~5,000人くらいだと思います」
「たったの3,000~5,000人で何ができるの?」
「はいそうです、しかもいつでも集められる訳ではありません。兵士は夏までは農業を行い、作物を収穫した後の晩秋から春先にかけて仕事が無くなります。そこで領主は農民を兵士として雇い、隣国を倒して領地を広げていきます。作物を作り収穫できる時期には農民は基本的に農業に従事しますので、その時期は絶対的に兵士数は減少することになります」
そしてダニロ公爵は一旦、間を開けて再び話し始める。
「それに農民を兵士として合戦に行かせ戦死させしまうと、兵士の数が単純に減少するだけではなく、作物を作る人間の数も減少するため、国力自体も低下してしまいます。そのため今まで決着がつかなかったのです」
「他国はどうなの?」
「似たようなものです。冬場や不作になる兵士を連れ、我が国に攻めてきます。そして領内を荒らし、適当なところでお互い使者を出し和解するのです」
「では冬場や不作になると食べ物が無いから、隣国にたかりに来る、ということね」
「その通りです」
「でも私が見た限りでは、ここは麦畑も広くて豊かな国だと思うけど」
「それはここが私のダラクア領だからです」
「ダニロ様の領だったのね」
「私はそれは領民が飢える事が無いように、軍事より農業に力を入れてきました。そのため、兵力が他の領より少ないので狙われるのです」
「隣国からも攻められるの?」
「勿論です。秋口になると隣国から攻められ、その度に和解金としてたくさんの食料を差し出し…」
なんか途中まではいい話だったのにな~。
結局、農業に力を入れるとたかられ、軍事に力を入れると不作になった時に食料が無いということね。
そしてどの領や国も攻めていっても、同じくらいの人数で戦い決着が付かないまま和解となる。
戦争に勝っても相手の3倍は兵がいないと、国を制圧するなんてできないから。
その問題をどの国も打破出来ないから、戦いが停滞していると言うことか。
そして同じ国の領同士なら、領主暗殺も効果的なことだ。
「他の領と婚姻関係を結んでいると聞いたけど」
「はい、そうです。ですがそれも当てになりません」
「どう言うことかしら?」
「どの領も隣接した2~4の領と婚姻関係を結んでいます」
「では婚姻関係の意味がないわ」
「その通りです。何かあっても中立を頼むくらいでしょう」
「ではダニロ公爵はどうしたいのかしら?」
「私は育ったこの領が好きです。ですから何とか守りたいのです」
「具体的にはどうするの?他国に内通する?それとも他の領の下に付き、この国の統一を目指すの?」
「まず他国に内通しても、領を安泰してもらえるとは思えません。領は取り上げられ、どこかに国替えさせられ命があるだけマシな待遇でしょう」
「では他の領の下に付くのは?」
「付いても無駄でしょう。一時的には良くても、他国が動いたら潰されてしまう」
「では結局、何も答えが出ないまま時間だけが過ぎていく、と言うことね」
「その通りです。それは他の領主も同じだと思います」
「もう1つ聞くわ。他の国に行ったら戦争の心配はないの?」
「わかりません。ただ言えるのは、どの国に居ても先は見えないと言うことです」
「そう、この国の戦い方はどうやるの?武器は?」
「ビッチェ様は、ご存じないのですね。主に武器は弓と槍、剣と盾です」
「おほほほほ!!私は箱入り娘だったから武器なんて知らないのよ」
「そ、そうですか。まず弓の打ち合いから始まり、槍隊が進軍し最後は白兵戦です」
「そうですか、それでどこまでやるの?」
「どこまでと言いますと?」
「戦いなら味方がどこまでやられたら戦うのかってことよ」
「兵が3,000名なら300人くらいまでです」
「はあ、それなら決着なんてつかないでしょう?ただの小競り合いよ」
「えぇ、そうです。絶対的に兵士数が足りないのです」
そうか、私は考える。
この世界に来た以上は私もここで生活しないといけない。
でもそこが争いの場では困る。
それなら全国統一に力を貸すのもいいかしら?
だって時間は無限にあるのだから。
「わかったわ、ねえダニロ公爵、この国の王になってみない?」
「な、なにを突然、私には王なんて無理です。戦略も人もおりません」
「では戦略と人が集まれば良いのね」
「それはそうですが。そんなことが出来れば、苦労はしません」
「大丈夫、任せておいて。このビッチェ・ディ・サバイアが力を貸すわ!!」
「ほ、本当ですか?!」
「でも約束して。覇を唱えると言う事は人の上に立ち、恨みを買い恐れられるものよ。非情になりそれに耐えられるかしら?」
「勿論です。どんなことにも耐え抜いてみましょう!!」
「それができるならこの私に任せなさい。あなたをこの国一の王にしてあげるわ!」
「ああ、ありがとうございます!」
その時の事を私、ダニロ・ダイゲルト・ダームブルックは忘れることができない。
ビッチェ様の神々しい眩い姿が今も目に焼き付いている。
自信に満ちた顔に薄っぺらな胸を叩く、ビッチェ様を見て私は高鳴るものを覚えた。
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