2019

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たしかに、私が言えることじゃない。 私の前の大澤毬花は、それで代替わりになったのだろうから。 「大澤さん、  飲み物買って行きます?」 「うん」 週末。 映画館で開場を待ちながら、新田の顔を見上げる。 「どうしました?」 「この映画、何回目?」 「…7回目です」 「そんなに観たんだ」 「だんだん、  これ観ないと4月が始まらないって感じに、  お互いなってたんですよね」 流れている予告映像を振り返る。 「思い出に水差してしまった?」 「いえ」 眼を細める。 「やっぱり大澤さんは大澤さんだなって」 二人して笑った。 そりゃあ同じデータだもの。 「何度同じ映画を観たっていい。  未来がなくたって、  今を大切にできればいいですよ」 死ぬよりはまし。 「そうだね」 でも、人間のいなくなったこの星で。 人間社会を保つ意味がどこにある。 2019年を繰り返す必要など、ないじゃないか。 それどころか、死ぬ必要も、新田と付き合う必要もないじゃないか。 私は。 私として生きたって。 いいじゃないか。 彼の手を、急に握った。 「ちょ、大澤さん」 顔を真っ赤にする。 彼も。 私も。 「離してください。  俺たち、  ただの同僚なんですよ」 「それは、  大澤毬花と新田圭のことでしょ」 私は、私だ。 機械同士だ、不毛だ? 知ったことか。 2019年など、知ったことか。 「今日から私は、私になる」 彼はようやく、私を見た。 何も言わない。 でも。 手を、握り返した。 終
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