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はじまり
「たった一つだけ何かから卒業できるとしたら、今日何を卒業したい？」
それは一人の、クラスでイケてる系男子からの唐突な質問。桜の花が一つ一つに枝のあちこちから生まれて太陽の光を浴び、嬉しくて照れながら俯き咲く、高校の卒業式後の孤独で静かな教室内。そんな桜の木を窓の近くで見上げていると、同級生の藤城くんが卒業証書の筒を片手に近づいてきて、そっと呟いた。私は首をかしげる。
学級委員の君が、私に何か用？
見た目も中身も格好いい君が、私みたいな凡人に、何か用？
それは君がいつも私に優しく話しかけてくれる日々の中で、たまに思うこと。
鞄を机に置き、卒業証書の筒を力なく持ち、私は桜の木を眺めながら藤城くんの言う『たった一つだけ卒業したいこと』を考える。聞いてみても思い付かないと感じてたけど、案外あまり悩まずに、私はゆっくりと口を開く。
「私はね」
「うん」
「私は……ダブルネガティブから卒業したいかな？」
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