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卒業式後の教室
そもそも私は世の中で凡人の仲間に入れてもらえてるだろうか。
藤城くんと目を合わせて思う。
「ダブルネガティブって何?」
藤城くんは私の予想に反してそう尋ねて首をかしげた。
「二重否定することだよ」
「二重否定?」
「否定したものをもう一度否定することで、肯定を表す。例にすると『楽しくなくはない』とか『行かないわけではない』とか」
藤城くんは目をしばたたかせる。でもすぐに私のもとから立ち去る様子がない。どうやら卒業式が終わり、明日から今後一切関わらないでいいというのに、藤城くんは変わり者の私の話に最後まで付き合う気らしい。学級委員とは、藤城雅也という男とは、卒業式終わりでも私みたいな者にずっと寛大で、私は彼に頭が上がらない。ずっとクラスで孤独で居続けた私にいつも本当によくやるよと思う。
「さすが志賀さんは文学が好きなだけあるよね」
「うーん、さすがなのかは意味がよく分からないけど文学は好き」
「ダブルネガティブはよく使う言葉なの?」
「うん。心の中限定で」
「何が、そんなに嫌なの?」
「二重否定をすると曖昧な感じがして、自分は素直に感情表現できないのかなって、私は嫌になる」
私は少し俯き、だんだんと風船のようにしぼんでいく声を出して、何とか言葉を言い切った。
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