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少しの間があいてから、私は卒業証書の筒を見せて、また言葉を重ねる。
「今日ね、この卒業証書をもらう時に思ったの。卒業と同時にダブルネガティブになるのももう卒業しようって。でも無理だった」
「……そうなんだ」
また沈黙になる。どうしようかと思っていると、今度は藤城くんが口を開く。
「志賀さんは、ここで何してるの?」
「桜を見てたの。教室から見える桜は今日で最後だから。ここで間近に見る桜が入学式の日からずっと好きだったから、名残惜しくて」
「そう」
「藤城くんは、何で教室に戻ってきたの? 卒業式終わって帰らないの?」
「忘れ物して」
「忘れ物?」
「うん」
「何を忘れたの?」
私が尋ねると少しの間があった。
「……しいて言うなら」
藤城くんは途切れ途切れに話をする。
「……うん」
「しいて言うなら、ダブルポジティブを……忘れたかな」
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