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私は目をしばたたかせる。でもすぐに理解した。
「ダブルポジティブ? 二種類の抗体で二重染色したサンプルを二カラーヒストグラムで解析した際に、共に抗体に染まったことを指す、あの細胞のこと?」
正確に回答したつもりなのに、藤城くんは驚き、すぐ首を振る。
「違うよ……急によく分からない理系の話するな。もう、無駄に頭いいんだから」
優しく諭されて笑われて、私は首を捻る。
無駄に頭いいとはどういうことだろうか。
「要は、俺も志賀さんと同じ目的なの」
「ん?」
「俺もいつもダブルネガティブで、志賀さんのダブルネガティブよりもかなりの重症者で、入学式の春から卒業式の今日まで、心の中で三重否定かそれ以上の多重否定をしてしまってる思いがある」
「そうなの?」
まさかクラスでイケてる系男子の藤城くんにもダブルネガティブになることがあるなんて、それ以上になることがあるなんて……初めて知った。
私は目を丸めて、藤城くんを見つめる。
「本当に欲しい感情を手に入らないからと決めつけて、傷つくのを避け、気持ちをごまかす手段はいくらでもあるからさ。頭の中でこっちのやり方が正しいと理解してもその場所にいくのから逃げるように行動をしてしまうんだよ」
「……逃げる?」
「冷たく言うと『甘えてすがってる』のかもね。できないって自分で認められなくて、認めてしまうと自分に負けた気がして、ごまかしてる感じ。あったかく言うと『少しずつ前を向いて歩こうとしてる』。行動ができないながらにも手探りで方法を探して何とかしようとしてる感じ」
「……うん」
誰にも分からないようなこの話はすごく共感できて、私は一度強く頷く。
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