親を呼ぶ

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「あ、もしもし、初めまして。私は吉井 晴輝君の担任をしているものですが、今、話をしてもよろしいでしょうか」 繋がったので、こちらから話しかけると、妙な返事が返ってきた。 「初めましてじゃないけど、大丈夫っす」 ――と。 しかも、それはスマホを当てる右耳だけでなく、左耳からも聞こえてきた。 声の元を辿れば、鼻をティッシュで押さえている小谷がいる。 「すまん、間違えた」 こんな時にこんな失敗をするから、自分は生徒に舐められるのだと、慌てて通話し直すが、やっぱり小谷に繋がってしまった。 「もしかして、送られてきた番号が間違ってたのか??」 「合ってますよ」 冷や汗をかきながら首を捻っているところに声をかけてきたのは、ぶすくれている加害者の吉井だ。 「昨日から俺の父親は、同じクラスで友人だったソイツになりましたから」 「……は?」 「十八歳になった途端に、書類提出しやがったんだよ! しかも、そいつら二人は保証人として喜んで名前を貸したって言うんだぞ。これ以上の裏切りがあるか!?」 そう叫んだ吉井は見るからに痛々しかった。 「珍しく弁当を用意されたと思って開けてみたら、小谷と結婚しましたとか海苔文字でサプライズ報告された俺の怒りはどうすればいいってんだよ、なぁ、先生」 これほど縋りつく目で頼られても、人生経験の浅い自分には気の利いたことを言えそうになかったので、つい、ベテラン主任に視線を向けたら、そっと逸らされた。 オイ。 「吉井、とりあえず、静かな場所で落ち着こう。ゆっくり、話を聞いてやるから、な」 保健の先生を振り向くと、鼻血を出して青あざのある小谷と憔悴しきって泣き出しそうな吉井を見比べてから同意してくれたので、吉井の肩を抱いて教室を出た。 たまたま、この日の午後は授業がなかったので、気の済むまで話を聞いてやり、背中をさすって慰めた。 普段は一端の口を利く大の高校生だが、やはり繊細な年頃なのだと可愛くもあり可哀相でもあったので、保証人になった林と中島には証書に名前を記す重要性を懇々と説き、放課後になって顔を出した母親にも小谷共々切々と説教してしまった。 以降、生徒からは頼りになると色々な相談事を持ち込まれるようになり、あの学年主任にでさえ一目置かれるようになったのだけれども、いい経験をしたとは、ちっとも、まったく思えなかった。
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