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「勇斗! 勇斗はいるか? 勇斗を呼べ」
「勇斗ちゃんならガレージでガチャしてるよ」
そう答えたのは、事務机でノートパソコンとにらめっこをしている年配の女性だった。彼女はディスプレイの縁から顔を覗かせ、老眼鏡のブリッジをクイと持ち上げる。
「楽くん、勇斗ちゃんにもしもしするかい?」
楽人のことを楽くんと呼ぶこの女性は、彼の母、渕東敏子(58)である。楽人の会社の経理と人事を任されている。
そして楽人が呼んでいる勇斗という人物は、彼の弟であった。株式会社美少女戦隊は、よくある家族経営の会社なのである。
ちなみに『もしもしする』とは電話をすること、『ガチャしてる』とは、勇斗が得意とする機械いじりのことである。
「そうだな敏子さん。勇斗を呼んでくれ」
敏子は目の前の電話の受話器を持ち上げ耳に当てる。
「もしもし勇斗ちゃん? お兄ちゃんが呼んでるよ」
数分も経たないうちに、ミーティングルームのドアが開いた。
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